2009年05月12日
『タイツくん 哀愁のジャパニーズドリーム』
松岡 宏行著 2009年5月15日発行 1470円(税込)
タイツくん 哀愁のジャパニーズドリーム
著者:松岡 宏行
販売元:大和書房
発売日:2009-05-08
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よく目にするキャラクターですが、このキャラクターが「タイツくん」と名付けられているのは本書で初めて知りました。本書の著者は、このキャラクターを生み出したキャラクター&コンテンツビジネスのスイスイ社を起業し経営されている方です。
本書は、著者の半生を振り返りながら、起業や会社経営についての苦労と工夫が述べられているのみならず、失恋や引きこもりの部分についてまでも書かれています。本書の目次は以下の通りです。
- 「サラリーマンの危機は朝訪れる」は本当だった
- 「横になりながら首をつる方法」を真剣に考える
- 商売のアテもなく起業する
- 仕事が仕事を呼んでも値切られる
- 「儲かっても幸せになれない」と知る
- 哀愁のV字回復、そして、「これから」を思う
いわゆる成功者によって書かれた起業の本はバイタリティ溢れる雰囲気ものが多いのですが、本書はどちらかというと人生の暗闇や現場での苦労に焦点が当てられています。
実際に起業してなんとか軌道に乗せながら小〜中規模のビジネスをされている大部分の人にとっては、大成功の物語よりも、本書の内容の方が共感できる部分が多いと思います。
確率的に考えると、ビジネス面においては、多くの人は本書に書かれているような経験をされることになると思います。
著者はエリートとして数年の銀行マン生活を送られた後、「うつ状態」といえるような引きこもりの5年間を過ごされ、その後明確な目的なく起業されました。タイツくんがヒットしたのは、起業してかなり経ってからです。
著者は能力の高い方だったようですが、若い時期は、少なくとも銀行マンとしては社会に適応できなかったようです。起業されたのも、社会から「はみ出した」状態でです。
社会に適応できない人には社会は冷たいものですが、その社会の厚みは、その社会に適応できない人が、どの程度それ以外の道を歩む道が存在するかによる面があります。
適応できないことは否定的に捉えられがちですが、適応できなかった人がその社会と異なった価値観から新たなものを創造することにより、社会は活性化します。
起業というのは、通常の社会人の生活に適応できない場合の一つの選択肢です。創業者には「変わり者」の比率が多いと思います。
「不適応」や「変わり者」は、とくに日本社会では、否定的なニュアンスが強い言葉であると思いますが、大きな視点から眺めると、実は社会に対して「不適応」や「変わり者」であるからこそ、大きな役割を果たしていると思います。
ただし、単に「不適応」や「変わり者」であるだけでは十分でなく、一定のこだわりや合理性は必要なようです。
本書は本文の面白さだけでなく、口絵のカラー部分も含め、数多くのタイツくんの画が楽しめます。本書の内容は、どちらかというとつらそうなものが多いのですが、タイツくんのユーモラスな表現でうまくバランスが取れていると思います。