2009年05月14日

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『「食糧危機」をあおってはいけない』5

川島 博之著  2009年3月30日発行  1150円(税込)

「食糧危機」をあおってはいけない (Bunshun Paperbacks)「食糧危機」をあおってはいけない (Bunshun Paperbacks)
著者:川島 博之
販売元:文藝春秋
発売日:2009-03-26
おすすめ度:5.0
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発売されてすぐに買ったのですが、しばらく積ん読になっていた本です。著者は大学の教官をされている方で、農水省の研究所や大学などで、システム工学的な発想を基に、長年食糧問題の研究をされている方です。

最近の食糧問題についての本は、今後地球上で食糧が不足するという論調のものがほとんどですが、本書は世間で騒がれているほど「食糧危機」については心配する必要がないという内容です。食糧危機が心配な方ほど、本書は目を通す意味が大きいと思います。



本書の章のタイトルは以下の通りです。

  1. 「爆食中国」の幻想
  2. 「買い負け」で魚が食べられなくなる?
  3. 21世紀、世界人口は減少に転ずる
  4. 生産量はほんとうに限界か?
  5. 「バイオ燃料」の嘘
  6. 繰り返される食糧危機説
  7. ほんとうの「食糧問題」とは?

中国など新興国の急速な経済成長により、世界的に食糧が不足するという懸念がここ数年台頭し、「常識」のようになってきていますが、本書はその「常識」を構成する一つ一つの要素について、ていねいに理論的に反論されています。

簡単に述べると、世界の人口は増加し続けるわけではない、農地は余っている、農業の生産性をのばす余地はまだまだあるなどといったことなどが骨子です。

しばらく前の農産物の高騰も、「金融的」な原因によるものであるとされています。

ジム・ロジャーズなどは、最近も今後農産物などの商品が上昇するということを言い続けています。果たしてどちらが正しいのでしょうか?

この答えは数年するとわかることでしょう。

本書を読むと理論的にもっともなことが書かれているので、著者の主張には納得してしまいますが、やや楽観的な印象も受けます。

たとえば、食糧不足に強い不安を抱いているのは世界でも日本人くらいであると書かれていますが、日本人に限らず人間の奥底には飢餓に対する深い不安があると思います。これは生物としての本能です。

また、農地が余っており、生産性を上げる余地も十分にあるということですが、実際に不足した場合にはタイムラグが生じ、世界的に不足気味の期間が出てくるかもしれません。

需要が100の場合に、供給が99であってたとえ1しか不足していない状態であるとしても、価格は高騰します。不足していることと余っていることは対称的な関係ではないからです。

また、金融的な問題や不安などの人間の心理が本質的な問題ではないとされているようですが、マーケットではこれらは本質的な問題です。

食糧が不足しそうになると、その不足を補うべく知恵が絞られ行動がなされますが、供給が満たされるまでの途中過程において不安が高まることでしょう。著者はその不安を感じる必要がないといことを理論的に書かれていますが、人間はそれほど理性的な存在ではないかもしれません。

世界中の人々が著者のような理解が得られれば、食糧危機に対するパニックは生じるはずもありませんが、皆が著者のような理解はできないでしょう。

今後も「金融的」に食料価格が上昇することはあるでしょうし、世界には食料価格を高くしたいという人々も多いはずです。また、マスコミなどは商業的に不安を刺激する情報を提供しやすい立場にあります。

よって、地球上の食糧の供給は少なくとも潜在的には満たされているとは思いますが、今後食糧の価格は高騰する可能性もあるというのが、本書を読んでの感想です。自分が飢え死にすることがないのはよく分かりましたが、農産物の価格が上がらないかどうかについては確信は持てないところです。



investmentbooks at 23:57│Comments(4)TrackBack(0)clip!本--世界経済 

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この記事へのコメント

1. Posted by ホリ   2009年05月15日 22:28
私も積読です(笑)
読み終えてからbestbookさんの書評読みます!
2. Posted by bestbook   2009年05月16日 02:04
ホリさん、コメントありがとうございます。

まだまだ積読の本は多くあります(汗)。本は読む時機を逸すると、読むモチベーションが下がってしまうものがありますね。

ブログお読みいただけるとのことで、ありがとうございます。ホリさんの書評も楽しみにしています。
3. Posted by snowbees   2009年05月16日 07:47
この新書の要約? 川島教授の記事があります。日本は、交渉力を維持するためにも、一部国産化を努力すべきと思う:
http://www.mizu.gr.jp/kikanshi/mizu_26/no26_c01.html
ただ日本の食糧も、バイオマスエネルギー動向によって、大きく変っていきます。日本はいま、アメリカから2000万tのトウモロコシを買っていますが、これを「燃料用に使うから、もう売らない」と言われたら、パニックが起きてしまう。明日からでも家畜の餌がなくなりますから、ブロイラーも豚肉も食べられなくなる。

今のところ、バイオマス燃料用より高い値段でトウモロコシを買っているので、当面そういう事態は起きないとは思います。ただ、原油価格が1バレル200ドルとか300ドルに高騰すると、バイオマス燃料のほうが採算がよくなるので、「日本には売らない」とアメリカが言い出す可能性もあるのです

4. Posted by bestbook   2009年05月17日 01:32
snowbeesさん、コメントありがとうございます。

食糧問題についてはさまざまな意見がありますが、議論の厚みが増すと問題に対処する場合よいと思います。

食糧問題はエネルギー問題や政治問題とも関係しているのが複雑なところです。

本書を読むと、潜在的な絶対量が足りていることはわかりますが、問題は、流動性がどこまで保障されるかです。

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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