2009年05月17日
『世界経済はこう変わる』
神谷 秀樹/小幡 績著 2009年5月20日発行 777円(税込)
世界経済はこう変わる (光文社新書 402)
著者:神谷秀樹/小幡績
販売元:光文社
発売日:2009-05-15
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『強欲資本主義 ウォール街の自爆』の著者と『すべての経済はバブルに通じる』の著者の対談です。前記の二冊は両方とも新書としてベストセラーになり、当ブログでも両方とも紹介してます。
本書は対談ですが、どちらかというと神谷氏考え方の色調が、より色濃く出ている印象を受けます。神谷氏は今回の金融危機の原因の一つとなったアメリカの金融資本主義を「強欲資本主義」と批判的に捉えられています。
本書の目次は以下の通りです。
- 最悪のシナリオは実現するのか?
- 借金依存経済に終止符を
- 金融と経営の原点へ回帰せよ
- 再生はどこからもたらされるか
- 生き残るための条件
両者とも今回の金融危機については、今後も危機が進展し、恐慌になるという可能性も示唆されています。ただし、そのことについては単に否定的に捉えられているのではなく、「強欲資本主義」を越えた新たなものへの期待もあるようです。
バンカーである神谷氏は、金融についてもその原点に戻るべきであると主張されています。原点のイメージとしては、本当に価値のあるものをつくりだす企業と手と手を取り合って、その発展を金融面から支えるというものです。
日本の成長率が高かった日本の過去において、日本の銀行が行ってきたことは、そのイメージに近いようです。
神谷氏は哲学・思想的に、小幡氏は学問的に深いものをお持ちなので、読む前は思想・哲学と経済学の対立がテーマになるかと想像していたのですが、両者の意見がほとんど一致していたのが意外でした。小幡氏が神谷氏に敬意を表されたということもあるのかもしれません。
日本はもともとしっかりとした伝統を有しているので、今後の発展のためには伝統的に有している価値観を大事にするべきであるという神谷氏の主張もありました。
最近はやや低調ですが、それでも日本はしっかりとした価値観を有していると思います。教条的な株主資本主義に対しては、国民が肌感覚で違和感を感じていたことなどはその表れです。
日本人が持っている伝統的な価値観を重視するという考えには賛成ですが、そのためにはむしろそれと対となる金融・経済面でのリテラシーをつけることが重要になってくると思います。
単に伝統的な価値観に回帰するだけではなく、もともと日本人に不足しがちな合理的・効率的な側面を伸ばす必要があります。不足しているものを伸ばしてこそ、もともとの長所がより生きてくると思います。
問題としては、伝統的な価値観か金融面での合理性かの選択ではなく、両者をバランスよく統合することです。逆説的ですが、日本の伝統的な価値観を活かすのであれば、今回の金融危機で否定的に見られやすくなった金融・経済面での合理性を、日本人は追求する必要があると思います。