2009年05月22日
『「お通し」はなぜ必ず出るのか―ビジネスは飲食店に学べ』
子安 大輔著 2009年5月20日発行 735円(税込)
「お通し」はなぜ必ず出るのか―ビジネスは飲食店に学べ (新潮新書)
著者:子安 大輔
販売元:新潮社
発売日:2009-05
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著者は大手広告代理店に勤められた後、飲食業界に転身された方です。本書は新書ということもあり、飲食業界に対する知識がほとんどない方でも、ビジネスに興味のある方であればとくに面白く読めるように書かれています。
現代の日本ではほとんどの人が外食をしますが、飲食業の市場規模は24兆円、日本人一人あたりでは毎日530円を使っていると本書にあります。本書の目次は以下の通りです。
- そもそも飲食店って儲かるの?
- ジンギスカンと立ち飲みのあいだ
- 「女性に人気のヘルシー店」は潰れる
- 情報化が偽装を産み出す
- 偽グルメ情報にご用心
- 「オーナーの夢だった店」は潰れる
- ショッピングセンターはおいしいか
- 店舗拡大の落とし穴
- 上場は勲章ではない
- 飲食店の周りに広がる「宝の山」
- 「個店」の時代が到来する
- 食が日本の輸出産業になる
ページ数の割には章の数が多いですが、それだけ話題が多岐にわたっています。
職人的な要素のある仕事は何でもそうですが、職人のこだわりとビジネスとして利益を出すことのバランスを取る必要があります。著者は、その双方の視点をバランスよく持たれていることが本書からよく分かります。
いろいろと興味深い話題が多かったのですが、とくに印象に残ったことは二つあります。
一つは、これからは「個店」の時代になるということです。「個店」とは、本書によると、「店主やスタッフが継続的な努力をしていて、ビジネス臭があまり感じられない、そこにしか存在しない唯一の店」だそうであり、肯定的なニュアンスで語られています。
インターネットの発達などにより、均一化される社会においては、人々は個性やこだわりを求める欲求が強くなるのでしょう。このことは、飲食業のみならず、その他の業界においても注意すべき点かもしれません。
もう一つは、食が日本の輸出産業になるということです。日本の飲食店が優れていることは、ミシュランの影響もあり世界的に知られ始めているようですが、たしかに日本食に限らず日本の飲食店のレベルは高いと思います。
本書に書かれているように、日本の飲食業の企業が外国で展開するという方法もありますが、美味しい料理で外国人観光客を呼び込むという方法もあると思います。日本で「美味しい」思いをすると、日本の評価は高まることでしょう。
日本はここ20年くらい停滞傾向にありますが、数字には表れていない部分で昔と比べて明らかに進歩している点がいくつかあります。その一つに居酒屋チェーン店の料理が美味しくなっていることが挙げられます。
価格はそれほど変わらないか、むしろ安くなっていることすらあると思いますが、料理は明らかに美味しくなっていると感じます。また店の雰囲気も改善しています。
飲食店を経営の視点から眺めたことのない方が本書を読むと、外食する際の見方が違ってくると思います。大げさに言うと、世界が広がるかもしれません。また、本書をヒントに他の業界のビジネスについても考えることができるでしょう。
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この記事へのコメント
プロフィールのところに
「本の知恵によって、世の中が少しでも
よくなればと思います。」
とお書きになっていますが、全く同感です。
私が関わっている飲食業が
「より良い方向へ」進むために
少しでも本書が役に立てばと思っています。
飲食業界の方、とくに経営に関係されている方が書かれている本は、本書のように良書が多い印象があります。
食べることは全ての人に日常的に関係するので、飲食業が「より良い方向」に進むことは多くの人の日常的な幸福感を増やす意味があると思います。