2009年06月08日
『貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する』
橘 玲著 2009年6月5日発行 1680円(税込)
貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する
著者:橘 玲
販売元:講談社
発売日:2009-06-04
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橘玲氏の新刊です。早々と今朝smoothさんが紹介されていますが、相変わらずの橘節は健在です。本書は、以前の著者の本をより物語風にして読み物として面白く書き直されている印象があります。
本書で書かれていることを簡単にまとめると、被雇用者は法人を設立して経済的により自由になりましょうということです。
本書ではマイクロ法人と書かれていますが、サラリーマン法人という表現を耳にされたこともある方もいると思います。法人にはさまざまな税金やファイナンス上の特典があり、それを利用しない手はないようです。
法人ということでさまざまな経費を計上できたりすることや、有利な公的融資を受けられたりすることなどのいくつかの特典について、数字や制度とともに具体的に詳説されています。
すでに起業されたり、中小企業を経営されている方は、本書に書かれている節税や会計、ファイナンスについてはよく知っておられる方も多いことでしょう。
法人に権利ともいえるようなさまざまな特典が与えられているのは、社会においては法人こそが本当の「大人」と見なされているからかもしれません。資本主義社会では、法人に雇われている人は、法人に依存する子供のようなものです。
本書にも述べられているように、法人になると信用がアップするのは、法人が資本主義社会においては本当の「大人」であるからかもしれません。法人に「人」という字が含まれているのは、偶然でないかもしれません。
本書には「大人」になったらこんなにいい思いができるよと書かれていますが、「大人」になるためには、大人としての知識や考え方が必要とされます。本書にはそれらのことについて述べられているとも考えられます。
本書にテクニカルに書かれているのは、お金をどのように配分するかという方法です。法人を利用すると、自分にお金を配分するためのさまざまな手段を手に入れることができますが、お金そのものが増えているわけではありません。
節税により自分の手元にお金が増えるということは、それだけ国や自治体に配分されるお金が減っているということです。市場より有利な条件でファイナンスできるということは、その有利になっている分は他の誰かが負担しています。
著者が述べているのは、結局のところゼロサムのように思われます。著者の提案される主張が有効なのは、多くの人は本書に書かれていることを実践しないからです。もしも皆が本書の方法を実践し始めれば、国は税金のシステムを変更するでしょうし、公的金融機関の金利は市場金利に限りなく近づくことでしょう。
そのように考えると、著者の書かれていることは本質的な価値を創り出さないように思えます。
しかしながら、著者が本書で最も言いたいことは、意識的に経済活動を行うということであると思われます。本書で書かれていることは、ゼロサムゲームですが、そのゲームに参加できるほど多くの意識が高まると、経済の効率性が高まり、結局は全体のパイが大きくなるはずです。
著者はあとがきで「国家に依存するな。国家を道具として使え。」と書かれていますが、多くの人が国家を道具として使えるくらいに意識が高まると、国家自体が変わってくることでしょう。
著者は国家を利用することを述べられていますが、一人一人の意識を変えることにより、国家自体のあり方を変えることを最も伝えたいのかもしれません。
本書に述べれていることは昔から考え方としては存在し、他の表現でも「目覚めよ日本サラリーマン」というメッセージはあちこちで言われています。
しかしながら、あまり変化があるように見えないのは、目覚めないようにするための個人の内部の働き、そして社会の働きが、目に見えない形で存在しているのかもしれません。
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この記事へのコメント
ご紹介ありがとうございます。
橘さんは、個人的に好きな著者さんでもあるので、つい(?)記事にしてしまいました。
本来なら、テーマ的にもbestbookさんのご担当かと(笑)。
ただこの方の場合、「物語形式のビジネス書」じゃなくて、フィクションも出版されてるんですよね。
意外と(?)こういう著者さんって少ないような。
仏教でいえば小乗という感じで、もう少し大乗的な考えになっていいのではと思います。
読んでいないのでなんとも言えませんが。
私の方は気楽なのですが、本書は微妙な内容なので、職業的な立場上、smoothさんはなかなか記事を書きにくい本であると思います。記事からも書くにくさが伝わってきたような気がしました。
橘さんの本は『亜玖夢博士の経済入門』が最近の本では印象的ですね。しっかり直木賞の予想を外してしまいましたが(汗)。
>なべさん
おそらく著者が言いたいのは、自分のために国家を利用することが、めぐりめぐって国全体を活性化することになるということではないかと思います。
なるほど仏教的にも考えられるのですね。上記の考えを踏まえて、著者がコメントされるとすると、大乗の教えを説く前に小乗の修行をした方が大乗の教えも充実するということになるのかもしれません。
このあたりは仏教の方でも解決できていないようで、難しい問題であると思いますが、最終的には個人の好みなのでしょう。