2009年06月15日
『バフェット・コード』
荒井 拓也著 2009年6月8日発行 1680円(税込)
バフェット・コード
著者:荒井 拓也
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2009-06-09
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バフェットについての書籍は翻訳ものがほとんどなのですが、本書の著者は日本人であるということが目を惹きます。
本書は大きく三部に分けられていますが、バフェットについて書かれた他の本と比べて最も際立つ特徴は、最初の第1部にあります。
- バフェットの歩んだ”王道”
- バフェット・システム
- バフェット・コード
第1部では、1997年から2007年まで、毎年のバフェットのポートフォリオと売買について簡潔にまとめられています。部分的にはよく他の本でも述べられていますが、本書のような形でまとめられた本は、少なくとも和書では見たことがありません。
バフェットは長期投資家のイメージがありますが、これらの記録を見ると、トレーダー的な側面があることもわかります。チャートも豊富に用いられており、売買の履歴の解説がわかりやすく述べられています。
売買の履歴の解説を通じて、ある程度バフェットの投資哲学について学ぶことができます。
第2部では、バフェットが毎年自社の株主に対して書いている「手紙」などから、バフェットの投資哲学やビジネスの考え方について述べられています。
ある程度は著者の解釈も入っていますが、バフェットは臨機応変でとらえどころがない面もあるので、バフェットについての本は、どうしても著者の主観が入ってしまう要素はあると思います。その主観の部分が、著者のオリジナルの部分でもあります。
第3部は分量的にも少ないのですが、将来のキャッシュフローを用いた投資の考え方について述べられています。この部分についての概念的な理解は難しくないのですが、実際の銘柄選択に応用しようとすると、必ずしも容易ではありません。本書の価値の多くは、第1部と第2部にあると思います。
本書や他の本を読んでもわかる通り、バフェットの投資哲学は平易な言葉で述べられており、その理解は必ずしも難しいものではありません。しかしながら、同じようにできる人はほとんどいません。
その理由はいろいろありますが、最も難しいのは同じような時間感覚を持つことであると思います。
もしも投資の時間が今より10倍の速さで流れるのであれば、多くの人にとって株式投資はそれほど難しいことではなくなるかもしれません。しかしながら、人が期待するほど株式投資の時間は速く流れません。
もしも10倍の速度で時間が流れるとすると、1年で10年の歳月が流れてしまうことになります。株式投資の平均リターンはおよそ年利7%なので、1年で10年分の時間が経つとすると、1年の平均リターンはだいたい100%になります。これならば、多くの人も時間の流れに余裕を持つことができそうです。
ところが、実際には時間はもっとゆっくり流れます。株式投資において時間がゆっくり流れることに対する人の我慢できなさの程度は、株式投資の平均リターンの期待値と関係があるはずです。
この時間感覚は、おそらく人間のかなり深い部分にあると思います。意識しないと、知らないうちにその感覚に流されてしまうでしょう。バフェットを本当の意味で理解するためには、その時間感覚についても理解する必要があると思いますが、このあたりの感覚は文字では伝わりにくいところです。