2009年06月21日
モバイルクーポンはゼロサムである
近くにチェーン店系のファミレスがあるのですが、そこではメール配信を通じたモバイルクーポンがあります。携帯のバーコードリーダーを使ってすぐに登録できるのですが、加入したところ定期的にメールが送られてきます。
毎回のようにモバイルクーポンがついていますが、ファミレスに限らずファーストフードなどでもモバイルクーポンはあり、今や多くの飲食店にとってモバイルクーポンは集客の重要なツールとして定着しています。
登録しているファミレスのクーポンは、だいたい100円引きといったものです。ケータイの画面に表示されているそのクーポンを会計時に提示すると、支払いの合計から100円を引いてくれます。
ささやかですが、100円引きになるとトクをした気分になります。本来払うべき100円がクーポンを見せるだけで手元に残るからです。
クーポンを見せなかったとしたら、手元残っていたはずの100円はファミレス側にあります。クーポンを見せる見せないで、100円が自分側かファミレス側に存在するという違いがあるわけです。
世の中全体に流通しているお金は、クーポンを使おうが使うまいが一定です。タイトルのゼロサムというのは、そのような意味です。
よって、クーポンを提示するということの本質的な意味は、大げさに表現すると、世の中全体にあるお金の配分を変化させるということになります。
自分の視点だけから考えると、クーポンは100円自分がトクをしたということですが、世の中全体の視点から考えると、お金の配分の問題として考えることができます。
クーポンはたんに提示するだけで100円がもらえるので、おトクな気がしますが、クーポンを見せるまでには実はさまざまな段階があります。
ファミレスのメール配信登録→定期的に届くメールを読む→クーポンのページにアクセス→クーポン開封
具体的な手順は以上ですが、さらにクーポンの存在を意識しておくという脳の作業があります。少しは脳に負荷がかかり、時間も取られます。
クーポンそのものは価値を創り出さず、たんなるお金の移動であること思うと、クーポンにこだわることにどれくらい価値があるかは再考の余地があります。
ポイントとしては、クーポンは価値を創り出すわけではなく、お金の配分を変えるだけということです。
さらに今度はクーポンを多くの人が使うようになったとします。クーポンを使う人が少ないうちは、クーポンを使わない人がクーポンを使う人のクーポン代を負担しているという構造になっています。
ところが、クーポンを使う人が多数派になってくると、クーポンを使わない少数の人だけでは、多数派の負担ができなくなります。
そうなると、基本的にクーポンはゼロサムなので、その分は店が負担することになりますが、店の負担にも限界があります。限界を超えると、店は商品の価格を値上げすることになるでしょう。
最終的な形としては、ほとんどの店がクーポンを導入し、皆がクーポンを使いそのクーポンの分だけ商品の価格が上がることになります。クーポンがない時期と比べると、利用者の実質的な負担は減っておらず、全ての人がクーポンを使う手間の分だけ損をすることになるでしょう。
クーポンと比べて、電子マネーはお金を持ち運ぶコストや切符を並んで買うコストなどを減らし、利用者の利便性を高めるという点で価値を創造していると思います。
クーポンについては、店側は集客力が落ちてしまうという点で止められず、利用者は使わないと損をしてしまうと思いこんでつい使ってしまいます。今後は、何らかの形でクーポンを通じて価値があるものを創り出せるようなものができるとよいと思います。
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この記事へのコメント
クーポンですが、広告費(マーケティングコスト)ということではどうでしょうか?
テレビや折込チラシを見るのと同等にケイタイ(メール)をみせる。
仮に、いままで顧客獲得コストが200円かかっていたところ、メールだと100円を客にあげることで、同等の効果が得られるとしたら?
全体しては、100円のコストカットになってます(メールの配信コストは無視)。
顧客を呼び集める(マーケティング)コストは0円でないので、効果があるのではないでしょうか? (効果があるから実施されているかと思いますが?)
テレビCMやバナーなどは、たしかに一切価値は生み出しませんが、誰かに知ってもらうことや、思い出してもらう、それ自体が経済性を高めるという効能もあるとおもう(経済を活性化させる)ので、クーポンが無価値ということはないかと。
丁寧なコメントをいただき、ありがとうございます。
お書きの通り、クーポンは店側にとってメリットがあると思います。自分が飲食店を経営したとしても、メールを用いたマーケティングやクーポンの活用を行うと思います。
これらのツールが有効であるからこそ、多くの店が利用せざるを得ない状況になり(使いやすいツールを利用する店が儲かるということは、利用しない店は相対的に損をするということなので)、最終的にはほとんどの店が同じようにして、ほとんどの利用者がクーポンを使うという将来が予想されます。
この予想が実現するかどうかは議論の余地がありますが、この状態になると結局誰もトクをしない状態になるのではないかというのが記事の主旨でした。ちょっと書き方が不十分だったかもしれません。
資本主義は差異が利益の源泉であり、時間と共にその差が消失し誰も利益を得られなくなるかもしれないということが根底にありますが、それをクーポンに当てはめて考えました。
記事を書いた動機としては、クーポンをおそらく必要以上に気にしてしまうということがあったと思います。
現時点でクーポンが店側にとって有効であるのには大きく同意です。
>>この予想が実現するかどうかは議論の余地がありますが、この状態になると結局誰もトクをしない状態になるのではないかというのが記事の主旨でした。
このあたりの主旨を私の方で読み取れなかったようで、失礼しました。
確かに、私もポイントカードやクーポンには うんざりしており、レジで受取拒否することが多くなったように思います。そうすることで、無理に期日間近のクーポンで店を選ぶ必要がなくなり、選択の自由を確保できるようになったと思います。
身近なクーポンで経済を考える良い機会でした、ありがとうございました。
クーポンは身近にある選択の不自由さを感じさせる代表的なものですね。完全に影響から逃れるためには、お書きのように最初から拒否するしかないのかもしれません。議論が深まってよかったと思います。