2009年06月29日

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『ブラック・スワン[上][下]―不確実性とリスクの本質』5

ナシーム・ニコラス・タレブ著  望月 衛訳

2009年6月18日発行  上下各1890円(税込)

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
著者:ナシーム・ニコラス・タレブ
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-06-19
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

 


ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質
著者:ナシーム・ニコラス・タレブ
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-06-19
おすすめ度:4.5
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当ブログでは紹介するタイミングを逸してしまいましたが、金融市場におけるランダム性について深く考察した『まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』の著者による新刊です。

前著は主に金融市場について書かれていました。本書でも市場についての記述はありますが、本書ではより一般性が強くなっていると思います。



本書のテーマは人間の認知の歪みについてです。本書のエッセンスを非常に簡単に言ってしまうと、人間は周囲の状況をありのままに認知するのは容易でなく、自ら規則性や物語などのバイアスを創り上げてしまうということです。

本書は本質的には同じテーマを、自由なエッセイとしてさまざまな角度から述べています。エッセイというより日本語の随筆という言葉の方がぴったりくるかもしれません。

さまざまな角度から似たテーマが繰り返し述べられているのは、本書のエッセンスはこのような形でしか理解しにくいからでしょう。本質的に人間の認知の盲点になっている部分は、その辺縁について解説することが最も理解しやすいはずです。

本書からは破壊的ともいうべき印象を受けるのですが、これは人間の通常の認知の癖を「破壊」する働きがあるかであると思われます。

本書を読むと、人によっては不安になる方もいるかもしれません。人間は「理解」をして安心したがる生き物だからです。

さまざまな人間社会の仕組みや制度は、根源的には安心のために存在する部分が大きいのですが、本書ではその安心しようとする認知のメカニズムが不安定性をもたらすという主張になっています。

本書に対して否定的な評価を下す方は、本書がどこか不安をもたらすことに影響を受けているかもしれません。特に体制的な傾向のある方はその可能性があると思います。

本書は洗練された知的な表現で説明されていますが、本書のエッセンスはさまざまな分野においてその分野の本質を理解している方が、言葉にならない形で漠然と把握していることであると思われます。

日本人が書いた本は、本書のようには知的な形では表現されていませんが、本書と本質的に同じ主旨のことが書かれている本は散見されると思います。

本書を読んで内容は「理解」できたとしても、人間のいかんともしがたいところは、読んだ直後に新たな「物語」を創り始めてしまうところです。無意識の働きを意識で調整するのは容易ではありません。



investmentbooks at 22:16│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--投資一般 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
このブログについて
2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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