2009年07月01日
「患者様」という言葉の違和感
いつ頃からかはっきりしませんが、病院によっては患者さんのことを「患者様」と呼ぶようになりました。「患者様」は「患者さん」より丁寧な呼び方ですが、いまだに現場ではその呼称に違和感がありしっくりきません。
今回はその違和感について考えてみたいと思います。
患者さんのことを「患者様」と言うようになったのは、数年前にマスコミで医療過誤について盛んに報道されていたことも関係あると思います。医療に対する見方が厳しくなったため、その風当たりを少しでも和らげようとする目的もあったかもしれません。
「患者様」という言葉は、語感的には
患者様=患者さん+お客様
という印象を受けます。
つまりお客さんとしてのニュアンスが「患者様」という言葉の中に入っています。似たような表現では、「お子様」がありますが、この言葉にはさほど違和感は感じません。「お子様」も「お子さん」と「お客様」のニュアンスがあります。
「お子様」という言葉に違和感を感じるとしたら、身内や学校でこの言葉を使った場合です。商業ベースの関係でない場合ですね。お客様という言葉は商業的な関係の場合に使われる言葉です。
では、お客様とはどのような存在でしょうか?
お客様とは利益を与えてくれる存在です。大きな利益を与えてくれる存在であればあるほどお客様的な要素が強くなるのは、取引によって与えられる利益が大きくなるほど丁重にに扱われることを考えるとよく分かります。一流ホテルの接客などを考えるとわかりやすいかもしれません。
一般の病院における職員の意識においては、患者さんのことはお客さんであるとはあまり思っていないかもしれません。もしもお客さんであると思っているのであれば、お客様と呼んでいるはずです。
もしも通常の商業関係のように本当の意味においてお客様扱いしている病院があるとすると、その病院は自費診療である、差額ベッド代が高い、経営的にかなり苦しいなどの理由があるはずです。
通常の保険診療をしている病院の現場感覚では、患者さんのことは「お客様」であるとあまり意識していないと思います。
さて、これは丁寧でないのでよくないでしょうか?
そんなことはないと思います。「お客様」と見なしてしまうと、治療関係にビジネスの要素が入り込んできます。
一般的な医療従事者の感覚、少なくとも経営サイドでない場合は、目の前の患者さんをビジネスの対象とは考えていません。お金を受け取る対象ではなく、治療する対象です。
あまりにも経済的なことを考えないと、システムが非効率的になってしまうというマイナスはありますが、少なくとも現場においてはお金のやりとりを意識せずに治療に専念できるのは理想的な面もあります。
「患者様」という言葉に対する違和感は、医療がビジネス化することに対する違和感であると思います。医療が完全に自由化されれば「患者様」という言葉はしっくりくるようになるかもしれませんが、おそらく治療を受ける側の負担が増えることが予想されます。
医療サイドの患者さんに対する接遇を改善するのであれば、他に改善するべき点は数多くあると思います。
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この記事へのコメント
先日読んだ、新潮新書から出ている「偽善の医療」という本にも同様の意見が述べられていました。
先生方の意見に同感します。
私も患者様という呼び方にはとても違和感を感じます。医療はビジネスと違って、儲けだけを考えていてはやっていけない面があると思います。
特に第一線で直接患者さんを診ている医師ならそう感じているのではないでしょうか。
例えば治療法としての選択に、儲けが大きいからといって手術治療を選ぶような医師はいないと思います。その患者さんにとってのより適切な治療法を、という風に考えているはずです。少なくとも私のまわりではそうです。
そう考えると医師と患者の関係は企業と顧客の関係とは違います。
だから、いたずらに患者様と言って顧客意識を煽ることには良好な医師患者関係を築くという意味で、違和感を感じざるを得ません。
納得いただき嬉しく思います。病院においても院内の役割に応じて、違和感は異なると思います。適宜柔軟に使い分けられるとよいのですが、そのためには違和感の原因が分かっているとそうしやすいと思います。この記事以外にもいろいろと考え方はあると思います。
>ficusさん
最初からそう呼ぶ流れでも違和感を感じるということは、それ以前から仕事をしている方はさらに違和感を感じているはずです。
本の情報ありがとうございます。自分が思っていることとの違いなどを確認するために、書店で見てみたいと思います。
>flowrelaxさん
こんばんは。やはり現場で働いていると違和感を感じますね。
医療において経済的な面を効率化するのは大事ですが、現場ではお金のことは意識せずに治療にあたりたいものです。
現在の日本の多くの医療機関の前線では、まだお金のことはほとんど意識しなくてすむので、日本の医療はそのような点ではよいと思います。
医療は癒しという人間の原始的な感覚に関係する行為なので、表面的な合理性だけを追求するのは望ましくないと思います。医療改革もよいのですが、そのような面も考慮されればと思います。