2009年07月02日
『アニマルスピリット』
ジョージ・A・アカロフ/ロバート・J・シラー著 山形 浩生訳
2009年6月11日発行 2310円(税込)
アニマルスピリット
著者:ジョージ・A・アカロフ/ロバート・J・シラー
販売元:東洋経済新報社
発売日:2009-05-29
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本書の共著者の一人は『投機バブル 根拠なき熱狂―アメリカ株式市場、暴落の必然』の著者です。この本はかなり前の本ですが、現在でも株式市場について理解する上で有用な本であると思います。アメリカの重要な住宅価格の指標であるケース・シラー住宅価格指数にその名前があります。
本書のタイトルの「アニマルスピリット」という言葉はケインズの言葉です。「血気」とも訳されるようですが、経済活動に影響を与える人間の合理的でない部分のことのようです。
そのように書くと、行動経済学によく書かれているような内容を想像していますが、本書は今までの経済学に著者たちのオリジナルな考察を加えた内容になっており、一般的な行動経済学の本とは異なります。
本書の各章のタイトルは以下の通りです。
- 安心とその乗数
- 公平さ
- 腐敗と背信
- 貨幣錯覚
- 物語
- なぜ経済は不況に陥るのか?
- なぜ中央銀行は経済に対して(持つ場合には)力を持つのか?
- なぜ仕事の見つからない人がいるのか?
- なぜインフレと失業はトレードオフの関係にあるのか?
- なぜ未来のための貯蓄はこれほどいい加減なのか?
- なぜ金融価値と企業投資はこんなに変動が激しいのか?
- なぜ不動産価格には周期性があるのか?
- なぜ黒人には特殊な貧困があるのか?
- 結論
第5章までがアニマルスピリットについての解説であり、その後の章はアニマルスピリットの概念を軸にして、経済的な諸問題について考察されています。
考察されている諸問題はタイトルからわかるように、アメリカにおいて論じられることが多い問題です。失業率とインフレの関係について多く考察されていますが、アメリカの中央銀行の役割がまさに両者を最適化することです。
本書は専門書と啓蒙書の中間に位置するような内容であり、経済学が専門でなければ部分的には難しいところもあり、一般的には少々歯ごたえがあると思います。
アメリカの経済政策を考察してる経済学者は、だいたいこのようなテーマについて考えているということが本書を読むとよくわかります。
本書は今回の金融危機についての考察もありますが、おそらくもともとは今回の金融危機とは関係ない内容で出版されるはずであったと思われます。
バブルとその崩壊の後は、人間の経済活動における非合理性についてスポットが当たりやすい時期なので、本書が出たのは結果的によい時期だったと思います。
「アニマルスピリット」については、経済政策の現場における実務について深い理解がある方であれば、何らかの形で了解されていることでしょう。本書はその何らかの形について、具体的な形でまとめられた本であると思います。
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この記事へのコメント
「不活動よりも活動を欲する自生的衝動」
のことのようです。
たしかにアニマルという言葉はもともとは活気づけるという意味から派生しているようです。
「不活動よりも活動を欲する自生的衝動」をより日常的に表現すると「ウズウズ感」とでも言えるかもしれません。
ご指摘参考になりました。ありがとうございます。