2009年08月11日

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『消えた年収』4

北見 昌朗著  2009年8月10日発行  1500円(税込)

消えた年収消えた年収
著者:北見 昌朗
販売元:文藝春秋
発売日:2009-08-08
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著者は賃金・人事のコンサルタントをされており、それらのテーマについての著作が何冊かある方です。本書の最後に近いページに、「この本は、著者の年来の研究を書き下ろしたものです。」とのコメントが書かれています。

本書は国税庁の「民間給与実態統計調査」におけるデータの分析に基づいて書かれています。日本人の平均年収が最も高かった平成9年と平成19年の比較が、分析の中心になっています。本書の目次は以下の通りです。



  1. 年収300万円以下はなんと4割
  2. 給与デフレの震源地は関西だった
  3. 全国データを徹底検証 「中小企業崩壊」が「年収崩壊」をもたらした!
  4. 日本人を貧乏にした犯人は誰だ?
  5. 「安定した給与」を取り戻すための5つの提言

あとがきが、「10年後には「夫婦共稼ぎ年収500万円時代」の到来か?」となっています。

本書はデータの分析がほとんどなので、日本人の年収の分析に興味がなければ、読み物としてはやや物足りないと思われる方もいるかもしれません。ただし、国税庁のデータに基づくので、バイアスなども少なく、かなりデータの信頼性は高いようです。

日本の給与は10年前と比べると全体的に低下しており、とくに地方と中小企業の低下率が激しいことが本書の分析からわかります。やや意外だったのは、年収が高い集団の給与も下がっていることです。日本は格差社会となって二極化していると数年前に盛んに言われていましたが、実際は異なるようです。

給与が下がった分、デフレで物価も下がっているのがせめてもの救いですが、実質的な購買力が実際の給与の減少分ほどには低下していないにしても、給与の低下は名目上でも仕事や生活の士気を下げます。

上記の目次にあるように、著者は5つの提言をされています。

  1. 勤労者の7割が勤務する中小企業を育成するべし
  2. 東北など地方に工場立地を進めるべし
  3. 大手は正社員雇用を増やすべし
  4. ワーキングプアの温床になっている派遣の拡大に歯止めをかけるべし
  5. 中国との付き合い方を再検討するべし このままでは富を吸い尽くされる!

以上ですが、日本の給与がこの10年間基本的に下降トレンドになるのは、根本的には新興国の発展とグローバリゼーションがあると思います。

労働を商品として見ると、先進国と新興国での裁定が長期的に続いています。そして、いまだにその差はあるので、今後もこの流れは止められそうにありません。

少しくらいの価格差であれば、国産品を購入することも続けられますが、3倍、5倍と価格差があると、考える余地はなくなってきます。なぜなら、みんな生活がかかっているからです。

これは企業の観点からも同様で、生き残りのためにはなるべく安価な労働力を用いないと、競争に生き残ることができません。

この先進国と新興国の労働商品の裁定の流れは、世界的な長期トレンドなので、この流れにさからうような方針は自分の首を絞めてしまいます。

この流れに逆らうことができるのは、中身が全く同じで価格だけが大きく異なる二つの商品の高い方を、なんらかのこだわりで買うことができる人ですが、大きなトレンドは全体によって形成されるので、全体としてみると焼け石に水です。

国の政策などで日本人全体が高いものを買うようにさせられたとしても、世界全体から見た日本人は少数者であり、経済的原則に反して高いものを買い続けると、国力が衰退するだけです。

この大きな流れに乗っている企業、たとえばユニクロなどは好調ですが、構造的にこの流れに乗れない企業はあまり業績がよくないようですし、今後もあまり改善が見込めそうにありません。

今後の考え方としては、いかに名目の給与を上げるかよりも、いかにこの大きなトレンドを利用するかを考えた方がよいと思います。それがうまくいくと、結果的に実質的な給与も上がるかもしれません。トレンドには、逆らわずにうまく乗るのがよいと思います。



investmentbooks at 22:11│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--日本経済 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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