2009年09月17日
『お金と幸福のおかしな関係』
マティアス・ビンスヴァンガー著 小山 千早訳
2009年9月15日発行 2940円(税込)
お金と幸福のおかしな関係
著者:マティアス・ビンズヴァンガー
販売元:新評論
発売日:2009-09-10
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著者はスイスの大学で経済学の教官をされている方で、本書のようなお金と幸福の関係なども研究テーマのようです。本書はドイツ語からの翻訳ですが、本書のような内容の書籍がドイツ語から翻訳されるのは珍しいと思います。
本書は著者が研究内容がもとになっているいますが、一般向けに平易に書かれており読みやすい本です。本書は、経済成長をしてお金がある国ほど参考になるはずなので、日本語に翻訳されたことは意味があると思います。
本書は大きく3部に分けられています。
- 収入と幸福の関係---経験的研究が語ること
- 幸福を約束しつつ、その幸福を阻むトレッドミル
- トレッドミルから飛び降りろ!
トレッドミルという言葉がありますが、これは同じところを歩き続けているのに前に進まず望む目的地にたどり着けないことの比喩として使われているようです。
本書では、さまざまな国における収入と幸福の関係について比較された結果などが解説されていますが、収入が一定の数値を超えるとそれ以上稼いでも幸福度はアップしないようです。もちろん日本人の平均値はその数値をはるかに越えています。
一定以上お金を稼いでも幸福度がアップしないことは、おそらく多くの人が何となくわかっていることと思いますが、それでも何となく収入を増やそうとしてしまいます。
本書が類書と異なるのは、分析以外にその罠にはまる解決方法も書かれていることです。以下に挙げる10の戦略としてまとめられています。
- 正しい池を選べ
- モノを増やす代わりに魅力的な社会生活を
- ベストを求めるな
- 家庭生活にストレスを与える生活スタイルを避けよ
- 空間と時間の柔軟な使い道を有効に活用しろ
- 効率、革新、競争力、改革を称揚するな
- 義務的な制限を導入しろ
- ランキング・マニアと闘え!
- 国家による再分配を増やす代わりにトップサラリーを制限
- 世の中を楽しむ術を学べ
以上のようなことは、競争社会で勝者になれなかった人に向けて語られることが多いのですが、本書の考え方では、ほぼすべての人に当てはまるようです。なぜなら、いくら「勝者」になっても幸福になりにくいというのが本書の主張だからです。
過去の日本社会は、上の提案のうちいくつかは当てはまっていた思います。そのような点においては、過ごしやすい環境だったのかもしれません。
人間がお金を増やすことによって幸福になれない根本的な理由は、人間はモノが不足している状況に対応して進化してきているからです。そのため、常に「足りない、足りない、足りない」というメッセージが潜在意識から発せられます。
また、そのため容易に安心や満足ができないようになっています。中途半端に安心や満足をしてしまうような個体は、モノが不足している状況では生存に不利な性質となります。
よって、そのあたりは意識的に調整する必要があります。その方法はさまざまあると思いますが、本書のような本を読んで幸福について理解を深めるのも一つの方法です。
幸福について考えると宗教的な方向に向かいがちですが、本書はそのような部分はほとんどありません。本書に書かれているようなことは、学校などで若いころから教えたり議論したりできるはずです。
「幸福学」といったようなものが今後発展して、多くの人々が問題意識を持てるようになると、経済成長とも調和してよりよい社会になるのではないかと思います。本書に書かれていることは、その先駆けのようなものかもしれません。
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この記事へのコメント
評価をいただきありがとうございます。足りないという思い込みは根深いので、意識することは容易ではありません。人間が欠乏している環境で過ごした時間は、現代の満たされてる時間と比べると桁違いに長いからです。
世界的に見るとまだまだ不足している人も多いのですが、将来の人間の課題は無意識のレベルで「足るを知る」ことではないかと思います。