2009年09月24日

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『道路整備事業の大罪 〜道路は地方を救えない』4

服部 圭郎著  2009年9月21日発行  798円(税込)

道路整備事業の大罪 ~道路は地方を救えない (新書y)道路整備事業の大罪 ~道路は地方を救えない (新書y)
著者:服部 圭郎
販売元:洋泉社
発売日:2009-08-06
おすすめ度:4.0
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本屋で見つけたときは洋泉社新書の新刊かと思いましたが、先月に出た本でした。著者は大学の教官をなさっている方で、都市・地方計画、都市デザインなどを専門とされている方です。本書は道路整備事業についての本ですが、主にその専門の視点から書かれています。

まえがきによると、著者は本書のタイトルを、「道路をつくると地方は衰える」としたかったということです。編集の方針で現行のタイトルになったようですが、やはり著者が希望されていたタイトルの方が、本書の内容自体はわかりやすいかもしれません。



道路をつくると地方が衰える理由は、新たに道路ができることによって地域以外の商業地に買い物に行くため地元の商店街がさびれることや、地域からの流出を加速してしまうことなどがあるようです。

諸外国と比べると日本はすでに十分な道路が存在し、さらに世界的には脱モータリゼーションの流れがあるため、日本の道路整備に予算を厚くするのは世界の流れに逆行しているとのことです。

先日紹介した『環東京湾構想―新たな成長と人間本来の生き方のために』という本には、東京湾口道路の建設によって東京湾を中心とした都市計画を提案することが書かれていましたが、本書はその道路計画には反対のようです。その件については両書は反対の意見なので、読み比べると面白いでしょう。

国土のすみずみにまで道路を建設するということは、車による国内の流動性を高めることになります。道路に限らず、労働市場、恋愛市場においても流動性を高めることは、基本的に格差を拡大する働きがあります。そのような意味においては、これらの問題の構造は同じです。

著者が数多くの実例を挙げて書かれているように、道路を地方に作ると衰退してしまうこともあると思います。そして、地方の伝統や文化もそれによって失われるものがあるかもしれません。

ただし、考え方によってはそれによって失われるくらいであれば、もともと存在することによる価値がそれほどなかったとも考えられます。

この問題は、どのような立場にいるかによって見方が大きく異なるでしょう。効率性と伝統や文化の対立は、地球規模の問題でもあると思います。

たしかに、効率性を重視しすぎている都市は何か落ち着きがないように感じます。道路が碁盤状に整然と整備されており、見通しがよすぎる街は居心地が悪いと思います。それよりも、ごちゃごちゃとして見通しが悪く全体の構造がよくわからないという街の方が安らぐ面があります。

おそらくこれは、人間の防衛本能が関係していると思います。男女についてもそうですが、伝統的・封建的な視点は一見古く、非効率的に感じますが、実は長年の進化の歴史において形成されてきた感覚が反映されています。

表面上な効率を考えると、なるべくすっきり理路整然としている方がよいように思ってしまいますが、人はすっきりしていない方がかえって効率がよくなる面もあります。

たとえば、整然としていない住宅地に帰って休むと落ち着いて休めることにより翌日の仕事の能率が上がるかもしれません。通勤はやや不便になる場合もあるかもしれませんが。

著者が本書を通じて主張したいのは、非効率性の効率性といったものであると思います。

この問題は、グローバリゼーションによって世界が一つになることにより、今後もさまざまなところで見られることでしょう。伝統や文化と効率性をどのように折衷させるかは世界的なテーマです。そのように考えると、本書は日本の道路整備についての本ですが、今後の世界の進展を眺めるヒントも得られると思います。



investmentbooks at 23:40│Comments(4)TrackBack(0)clip!本--日本経済 

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この記事へのコメント

1. Posted by ちびまるこたん   2009年09月25日 01:08
5 いつも本を買う時の参考にさせて頂いています。
この本の記事とは直接関係ない質問で恐縮なんですが、
民主党が、高速道路の無料化を実現するそうですが、
無料になったらホントに地方は潤うんですかね?
高速で行ける観光地は多少潤うかもしれないけど、それ以外はあまり期待できないんじゃないでしょうか?
私は静岡市在住なんですが、逆に高速が無料になったら今まで静岡の繁華街で消費していた若者なんかは、横浜や東京に服など買いに行ってしまいますよ。
浜松あたりの若者は浜松の繁華街で買わずに東名で名古屋に遊びに行きますよおそらく。
逆に東京や名古屋の人が高速が無料になったからといって、富士インターで降りて富士山や富士サファリパークには行くかもしれませんが、
静岡ICで降りて静岡市の繁華街にお金をおとしていくことは見込めないような‥
2. Posted by bestbook   2009年09月25日 01:14
ちびまるこたんさん、コメントありがとうございます。
いつもお読みいただきありがとうございます。

民主党の高速道路無料化も、自動車による交通の流動性を高めるという点で、本書に書かれていることと通じるところがあるようです。
高速道路が無料化されると、地方で特色のないもともと下降トレンドにあった商業地は、お書きの通り、より衰退傾向により向かうと思います。民主党の政策の主旨は「みんなに優しい」だと思いますが、本来の意向と異なった結果を生むかもしれません。
新幹線の停車駅でも、特色のない駅は新幹線が通ってもさびれています。
地方の中心的な都市が栄え、それ以外の地域がさびれるという、地方の一極集中とでもいうべき流れになるのではないかと思います。それがよいことなのかよくないことなのかはわかりませんが。
活気のない地方都市が生き残るためには、そこに行かないと味わえないような特色を出すしかなくなるのかもしれません。便利になればなるほど、ある種の不便さの味わいが見直されるかもしれないと思います。
静岡市とは話がやや違いますが、静岡県について言うと、本書では三島の話が出てきました。三島は開発されないなかったがゆえに、逆によい味わいを出しているといった内容でした。
地方における格差はますます開きそうですが、大きく人やお金の流れが変わると思うので、考え方によってはチャンスかもしれません。
3. Posted by ちびまるこたん   2009年09月26日 00:46
5 レスありがとうございます!
地方はほんとヤバイですよ。私が住んでいる静岡市はまだ静岡県の県庁所在地ですから多少は栄えてますが、
静岡でもマイナーな市町村はかなりヤバイと思います。
blog主さんは静岡に行くことなんてめったないですよね?
うちの親父や母親の時代は、熱海なんかはけっこう日本人の新婚旅行の場として有名だったらしいんですね、
でも今は熱海も伊豆もかなり寂れちゃってますよ!
熱海や伊豆が昔のように観光地やレジャースポットとして活気を取り戻す可能性てありますかね?
東京から近いですから、やり方次第では可能性あるような気がするんですが‥
マリンスポーツや温泉もあり〜の、御殿場のアウトレットみたいのを熱海や伊豆の白浜あたりに作るとか、電通に企画を以来するとか(笑)
4. Posted by bestbook   2009年09月26日 01:23
コメントありがとうございます。

たしかに地方にたまに行くと、尋常でないさびれ方をしているのを感じることがあります。
日本の温泉地や観光地は高度経済成長の時代に日本人が国内旅行をするようになるにしたがって発展してきているので、現在もその名残がありますね。
さびれた原因は、日本の経済成長がスローダウンしたことに加え、バブルの頃の過剰投資や日本人が海外に出て行くことになったことなどがあると思います。
藤巻健史氏などによれば、円安にすれば日本の温泉地などは活性化するとのことですが、人為的に円安にすることについては議論があるところです。
伊豆や熱海については、一部富士山が見えることや東京から近いこともあり非常に恵まれていると思います。
今後の復活シナリオとしては、やはり将来経済成長をするであろう中国やその他世界の国々からの人々を呼び込むことだと思います。日本から外に出ているので、その分海外から来てもらう必要があるはずです。
その流れができると、トレンドが上向くので銀行融資などによる設備投資もできるようになり、流れが加速するはずです。活気が出ると国内の旅行者も増えることでしょう。あと5〜10年くらいの辛抱のはずです。
それまでは、できる範囲で内部に地力を蓄えておくのがよいのではないでしょうか。
静岡に限らず、日本は外国からすると非常に魅力的な観光資源があると思います。

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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