2009年10月04日
『恐慌は日本の大チャンス』
高橋 洋一著 2009年9月29日発行 1785円(税込)
恐慌は日本の大チャンス 官僚が隠す75兆円を国民の手に
著者:高橋 洋一
販売元:講談社
発売日:2009-09-30
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「事件」以降、しばらく雌伏されていた高橋洋一氏の新刊です。大変な時期を過ごされたはずですが、主張点や語り口は同様です。事件の真相は「藪の中」ですが、本書の最初の部分において、著者の立場から「事件」の「真相」について語られています。
本書はもともとしばらく前に出る予定の本だったようですが、出版がいったん停止となったため、政権交代以降の政治・経済の状況を踏まえて加筆されています。本書の目次は以下の通りです。
- 史上最大の恐慌の足音
- 政府紙幣は麻薬なのか
- 世界大恐慌の教訓
- インフレ政策目標という世界標準
- 構造改革の真実
- 強国として甦る千載一遇の好機
現在の日本の経済状況については、恐慌に向かいつつあると見なされているようです。著者の計算による需要と供給のGDPギャップは80兆円とのことで、そのギャップを埋めるために緩和的な金融政策が必要であると主張されています。
具体的には、インフレ目標政策、政府紙幣の発行、埋蔵金の活用などですが、これらは著者が以前から言われていたことです。これらで75兆円を捻出する方針のようです。
日銀や財務省、そして政府の金融政策が不況にもかかわらず緩和的でないので、それらの批判的な話が以前と同じように出てきます。官僚の方々について批判的なのも変わりがありません。
本書に限らず、緩和的な金融政策について述べられてる本はよくあります。不況におけるデフレ的な状況になると、そのような本が目に付くのですが、日本で積極的に金融緩和政策が採用されたことは近年ありません。
金融を緩和するだけでは日本経済における問題がすべては解決するとは思えないのですが、少しでもプラスの影響がある可能性があるのであれば、実際に行われたらどうなるか一度見てみたいものです。
時間が経つにしたがってお金の価値が上がるという状況は不自然な印象を受けるので、個人的には緩和的な金融政策は良いと考えています。お金は世の中をめぐることに大きな意味があります。時間が経つにしたがって少しずつお金の価値が減るのであれば、世の中にお金は出回ることでしょう。
流れない水は澱むので、お金に限らず流動性を高める政策は基本的にはベースとして望ましいのではないかと思います。もちろん流動性を高めることによって問題が生じる点もありますが、それはその場で対処すればよいはずです。
著者が闘っている相手は、物事を固定したくなる人間の心ですが、その心の持ち主は著者からすると主に官僚の方々になるのでしょう。
著者の闘い方は正面から突撃するような印象を受けるのですが、協力者がどうなるかに大きく影響を受けると思います。著者の闘いが勝利に終わるかどうかは、適切な協力者を得られるかどうかによるでしょう。
日本の官僚のイメージは「成熟した賢い大人の女性」なのですが、このような存在を本当の意味で変化させる存在は、それに対応する「成熟した賢い大人の男性」になります。著者の主張が実現するかどうかは、著者の主張に賛同するそのような政治家が出現するかどうか次第であると思います。