2009年10月05日
『仏教対人心理学読本』
小池 龍之介著 2009年9月28日発行 1470円(税込)
仏教対人心理学読本
著者:小池龍之介
販売元:サンガ
発売日:2009-09-25
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著者は現役の僧侶で、家出空間という仏教のサイトを運営されている方です。独特の味わいのある一般向けの仏教の啓蒙書を数多く書かれています。本ブログでは『お金と生き方の学校』というインタビュー集を紹介したときに登場されており、そこでは発言の厳しさが印象的でした。
本書では仏教的な視点から対人関係について説かれていますが、その考え方の真摯さや厳しさは同様です。本書の目次は以下の通りです。
- 他人に受け入れられる「不」可能性
- 残酷モテゲームの舞台裏
- 「自己愛」をめぐる苦痛メカニズム
- 煩悩の黒幕:無力感
本書のテーマは仏教的な対人心理学ですが、モテ、つまり恋愛についても多くのページが割かれています。しばらく前に出た著者の本では、問答形式の以下のものもあります。
こちらは主婦の友社から出版されていることもあり、内容がやや女性向けですが、仏教的な厳しさは同じです。
本書は遊びがある特徴的な文体ですが、文体の部分にでも遊びを入れると内容的な厳しさが少し和らぐように感じます。また、イラストも和むような雰囲気のものになっています。
本書の内容は非常に洞察的であり、自我の存在という錯覚に由来する人間関係の苦しみを根底から考察しています。あまりストレートに洞察的であるので、もともと潜在的に深い問題意識を持っている方は、本書を読むと苦しくなってしまうかもしれません。
また、あまり問題意識のない方はピンとこないため内容が素通りしてしまうかもしれません。言葉としては理解できても、自分の問題として理解しにくいこともあるでしょう。
本書の根本にある考え方に、快楽と苦痛は刺激という点では同じであり、両方とも苦の原因となる、あるいは苦そのものであるということがあります。快楽を苦であるとみなすところに、一切皆苦(本書では一切行苦と訳されています)という仏教的な思想が反映されています。
恋愛に限らず世俗的な欲望を満たすことが苦の原因であるというのは、まさに仏教的な考え方ですが、やはりある程度世俗的な欲望を満たすのは、一般的には必要かもしれません。
たとえば彼女が欲しいと思っている若い男性がいるとして、恋愛によって得られる快楽は本質的には苦であると説いても、すぐには受け入れることはできないことも多いでしょう。
このことは恋愛に限らず、美味しいものを食べること、お金を稼ぐこと、出世することなどすべてに当てはまる話です。
そのような意味において、本書はやさしい言葉で書かれてはいますが、万人向けの内容ではないと思います。ただし、話としては知っておくのはよいでしょう。人生でさまざまな思いを重ねると、いつか腑に落ちる瞬間が突然来るかもしれません。
快楽が苦であると理性ではわかっていても、実際に快楽という苦を実際に体験して認識を深めることも人生には必要かもしれません。その後に本書を読むと、心に染み入るはずです。