2009年10月12日
『希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学』
池田 信夫著 2009年10月8日発行 1680円(税込)
希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学
著者:池田 信夫
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-10-09
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著者は著明なブロガーで、本書はブログの記事がもとになっています。著者のブログは経済について書かれていることが多く、非常に参考になりますが、ふだん経済にあまり関心のない方が読むとすぐには理解できない部分も少なくないはずです。
著者のブログの記事は、今まで著者が書かれてきたことをある程度理解していることが前提になっています。そのような意味において、本書は日々更新される著者のブログの記事を理解するための、著者による案内本としても読むことができると思います。
本書の目次は以下の通りです。
- 格差の正体
- ノンワーキング・リッチ
- 終身雇用の神話
- 長期停滞への道
- 失われた20年
- 景気対策の限界
- 日本株式会社の終焉
- 「ものづくり立国」の神話
- イノベーションと成長戦略
日本における経済的な諸問題について幅広く語られていますが、分量的には雇用問題について最も力点が置かれています。
本書に書かれている著者の主張については、おそらく専門的には議論がありすべてが正しいというわけでもないのでしょうが、合理的なことが多く主張に納得しやすいことはたしかです。
しかしながら、著者が提案されている数々の議論は、経済的に合理的なことが多いにもかかわらず、現実的な政策にすみやかに反映されているわけではありません。それどころか、むしろ反体制的であると思われている場合すらあります。
体制というものは、それを有機的な一つの存在であるとみなすと、有機的であるがゆえに自らのアイデンティティを維持しようとする働きがあります。その維持しようとする働きはそれ自体が目的のため、盲目的・非合理的です。
よって、本来盲目的・非合理的である体制と合理性とは相容れず、もともと対立しやすくなっています。そして、いったんその対立構造が確立してしまうと、その構造は正のフィードバックにより強化されてしまいます。
そうなってしまうと、非合理性の部分を同じ次元の合理性で解決することは難しくなります。男性が女性を口説くときに、いかに自分と付き合うことがトクになるかを理屈で話し続けても女性がウンと言ってくれず、袋小路にはまってしまうようなものです。
著者が主張されているような形で日本がなかなかよい方向に変化できないのは、変わること自体に対する不安や、変わることによる損失についての不安などがあるからでしょう。不安は非合理性の強い情動です。
そのように考えると、日本を著者が提案されているようなよい方向に変化させられるかどうかは、いかにして変わることへの不安を「合理的に」解決できるかにかかっているのではないかと思います。
どのように変わればよいかという目標は、多くが著者の合理的な提案に尽きています。これから必要なのは、目標の合理性よりもその目標に至るための手段についての合理性であると思います。
男女関係で考えると、女性に伝えるべき男性としての合理的な将来設計は十分に立て終わっています。これから必要なのは、不安に満ちた女性を口説く合理的な方法を考えることです。
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この記事へのコメント
もうひとつ、東京にビジネスの機能を集中させるという意見は個人的には賛成できません。池田さんも乱暴な論理だとわかって書かれているのだとは思いますが‥。
雇用問題は一人一人の生活にかかわってくるので、総論賛成・各論反対になりやすく改革は容易ではなさそうです。
「国土の均衡ある発展」を言い出した頃から日本の成長率が落ちたという話もあるので、著者はある程度はそう思われているかもしれません。地方といってもひとくくりにできない面もあるので、中央と地方の関係をどうするかは、雇用と同じように難しい問題ですね。