2009年10月16日

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『同和と銀行』5

森 功著  2009年9月3日発行  1785円(税込)

同和と銀行 三菱東京UFJ“汚れ役”の黒い回顧録 (現代プレミアブック)同和と銀行 三菱東京UFJ“汚れ役”の黒い回顧録 (現代プレミアブック)
著者:森 功
販売元:講談社
発売日:2009-09-04
おすすめ度:5.0
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著者はノンフィクションライターで、日本社会の暗部をテーマにした作品を数多く書かれている方です。本書は昨年雑誌に連載されたものが大幅に加筆・修正されて単行本化されています。

連載は「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞しています。本書は、当時の都市銀行の担当者への取材がもとになっています。



本書の主役は、各界に太いパイプを持っていた関西の裏社会の実力者です。その方は現在お亡くなりになっており、主役となる銀行は合併・再編を繰り返して名前が無くなってしまっているので、本書のような本が成立しているのでしょう。

本書は主にバブル前後のことが書かれています。銀行の担当者と裏社会の実力者が出会うところから話が始まっていますが、両者の関係が深くなるとともに銀行との関係も深くなっていきます。関係が深くなるということは、お互いにメリットがあったはずです。

本書にある話ではありませんが、以下のようなたとえがわかりやすいかもしれません。

駅前の一等地に昔から存在している5軒の家が並んでいるとします。その土地の価格は一戸あたり1億円で、合計5億円となります。バブル期ならその5軒の家を壊してビルを建てれば、20億円の価格となります。

その5軒は権利関係がややこしくて、話の調整が難航しています。そのようなときに裏社会の実力者に頼めば、話がまとまりやすくなります。そして、20億円を配分しますが、もともとの家の持ち主が2億円ずつ、その実力者が5億円、銀行が5億円を取り、全員が得をしています。

上の数字は適当で、話も単純化していますが、高度経済成長期やバブル期の日本には以上のような案件が数多く存在したことでしょう。

成長途上の社会はエネルギーが溢れており、「混沌」が存在しやすくなります。おそらく、現在経済発展をしている新興国にはさまざまな「混沌」が存在していることでしょう。

そのような場合は、「混沌」をうまく処理する存在が必要です。「混沌」を処理するためには、パワー、コネクション、知恵などが必要とされます。

これらは自然界の「混沌」に大きな影響を受けていた昔の人間社会において、男性に求められていたもので、これらのものは男性性と深い関係があります。

本書においては、裏社会の実力者が男性的な存在、銀行が女性的な存在であるとみなすことができます。インタビューを受けている銀行の担当者は、両者をとりもつパイプ役です。

これらの関係が成り立つために、最も重要なポイントは、担当者に男性性と女性性に対応できる能力があることです。

この担当者も、最初は今までの担当者がそうであったように、腫れ物に触るように裏の実力者に接しており、そのため「ノイローゼ」になりかけたようです。しかしながら、ある日意を決して懐に飛び込みました。

「セ・リーグのペナントレースでタイガースが大勝した翌朝、受付を通さずにいきなり本人のいる三階へ上がって『支部長、阪神強いですな』と言いながら、目の前のソファーにドンと腰掛けたんです。すると、怒るどころか、『おう、飯でも食おうか』と言う。」

このことをきっかけに、両者は急速に親しくなったようです。さりげなく書かれていますが、これは銀行にとって運命の分かれ道でした。ここには人間関係における非常に重要なポイントが表されています。それは、波長を合わせるということです。

銀行の担当者は、上記の言動により、裏の実力者と男性的な波長を共鳴させました。人間は共鳴すると、急速に親しくなります。逆に考えると、一定の距離を保つためには波長を共鳴させないことです。

波長を共鳴させてしまったことは、銀行にとって大きなメリットもありましたが、男性性に伴うリスクも共有することになってしまいました。それでも関係が深くなったのは、大きなリターンがあったからですが、それらのリターンについては本書に具体的に詳しく書かれており、読んでいて興味深い部分です。

これは、女性が男性と親しくなってその男性のさまざまな力を利用することと同じです。その男性が力を発揮できるときは、女性はその男性を持ち上げて、そして実際に気持ちの上でも好きになって蜜月関係になりますが、その男性のパワーが無くなるとその関係は急速に冷めてしまいます。

日本経済がある程度発展してそれ以上成長する必要が低下すると、「混沌」の部分が少なくなって、社会が低リスク化します。社会が低リスク化すると、男性性の役割は小さくなり、男性の価値も低下してしまいます。

本書は過去の銀行の暗部をテーマにした本ですが、日本社会が女性化しており、男性性の価値が低下していることをよく表していると思います。



investmentbooks at 23:58│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--日本経済 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
このブログについて
2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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