2009年10月19日
『バブルの興亡』
徳川 家広著 2009年10月15日発行 1680円(税込)
バブルの興亡 日本は破滅の未来を変えられるのか (講談社BIZ)
著者:徳川 家広
販売元:講談社
発売日:2009-10-16
クチコミを見る
著者は徳川将軍家直系19代目の方だそうです。政治・経済評論家をなさっており、過去に数多くの翻訳書を出されています。たとえば、本ブログでも紹介した『ソロスは警告する』は著者が訳者です。
本書は翻訳ではなく、著者ご自身による初めての本のようです。本書は一つの未来予測本ですが、これらから約3年後に日本に巨大バブルが生じると述べられています。本書の目次は以下の通りです。
- バブルはどこから来て、どこへ行くのか
- 四つのメガバブルから未来が見える
- 「失われた二十年」の正体
- 空前の狂乱経済へ、起爆剤は出揃った
- 巨大バブルが復活したら、日本はこうなる
- 巨大バブルが崩壊したら、どう身を守るのか
前半は、バブルのメカニズムや、ここ100年の四つのバブル(日本の不動産バブル、大恐慌前のバブル、ITバブル、サブプライム・バブル)と、バブル崩壊後の日本の「失われた二十年」について、主に歴史的な観点から解説されています。
前半は一般的な事柄について、ある程度著者の解釈をまじえて書かれていますが、本書のメインの部分はやはり後半の予測の部分であり、その部分がとくに読みごたえがあります。著者は投資はなさらないようなので、本書はポジショントークではないようです。
3年後にバブルが来るという話ですが、そのことについて著者は以下のように書かれています。
「実は、本書の構想をあちこちで話していて、気が付いたことがある。それは、
「バブルがまた来ますよ」
と言うと、嫌そうな反応をする人よりも、「へえ〜、そうですか♪」などと、嬉しいのを通り越して恍惚の表情を浮かべる人のほうが多数派だという事実だ。」
「♪」にバブルを期待する雰囲気がよく出ています。日本人は20年前のバブル崩壊以降その処理で苦しい思いをし続けてきましたが、実は多くの人はバブルが好きなのではないかという話です。
これは、数年前に大恋愛が失恋で終わり、時間をかけて少しずつ失恋の傷が癒されてきた人が、よく当たるという評判の占い師に「もう少ししたら運命の人と出逢って大恋愛しますよ」と予言されてウキウキしているようなものです。バブルや恋愛については、人間は懲りないようにできているのかもしれません。
バブルが来る前にアメリカ発の金融危機第二波が来ることが、バブルの前提になっていますが、そのあたりのロジックについて興味のある方は、本書の著者の解説を参照してください。
3年後にバブルが来るという予測はあるのですが、実はその後に、インフレとハイパーインフレが生じて、日本が「廃墟経済」になるということも書かれています。
バブルという言葉がタイトルについており、本書のテーマは今後のバブルについて書かれている部分であることは間違いないと思いますが、実は裏のテーマはハイパーインフレ後の日本について述べられている部分であると思います。
ハイパーインフレが生じると、第一次世界大戦後のドイツや太平洋戦争後の日本がそうであったように、もちろん国は悲惨な状態になります。
しかしながら、ハイパーインフレによりそれまでの体制が破壊されると、既得権益層が消失し、そのため今まで実力を発揮できなかった人に新たに活躍の場が生じ、国全体の活力が増すという利点もあります。
ハイパーインフレが起こった状態は、日本の債務と高齢者の金融資産がほとんどなくなった状態を想像すると、部分的にはわかりやすいかもしれません。多くの金融機関は倒産し、非効率的な企業もほとんど潰れてしまいます。
ここ数百年で日本の体制が大きく破壊されたことは、二度ほどありました。明治維新と終戦後ですが、その後日本は活力を得て大きく発展しました。
膠着して停滞している日本に必要なのは「破壊」かもしれません。「調整」は自らできますが、「破壊」は不可抗力的なイベントがないと困難です。
本書のシナリオがそのまま実現するかどうかはわかりませんが、著者が予測されているそれぞれのフェーズでどのように資産を配分するかという実用的なことも書かれており参考になります。
本書のような内容の本が、150年前の既得権益層を代表する徳川将軍家の子孫の方によって書かれていることは、非常に興味深いと思います。