2009年10月25日

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『リクルート事件・江副浩正の真実』4

江副 浩正著  2009年10月25日発行  1575円(税込)

リクルート事件・江副浩正の真実リクルート事件・江副浩正の真実
著者:江副浩正
販売元:中央公論新社
発売日:2009-10-23
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約20年前に日本中を大きく揺さぶったリクルート事件について、事件の中心人物である元リクルート社長の江副浩正氏御自身が自分の立場から書かれている本です。

江副氏の立場から事件を本格的に振り返った本は本書が初めてです。長年にわたる裁判も終結しており事件としてはけじめがついていますが、リクルート事件から読み取れる問題の本質は、現在も存在していると思います。本書の目次は以下の通りです。



  1. リクルート事件---発端
  2. リクルート事件---特捜の取調べ
  3. リクルート事件---保釈後から裁判開始まで
  4. リクルート事件---裁判
  5. リクルート事件---リクルート事件に関連して

目次からわかるように、本書は事件の発端から裁判の終結までを江副氏の視点から書き綴ったものです。事件の記録と江副氏本人の内面的な記述が充実しており、事件のことについてあまり知らなくても本書だけで核となるポイントは理解できるようになっています。

江副氏は執行猶予付きの有罪判決が確定していますが、事件の発端から裁判が終結するまでのことを読むと、まさに悲劇としか言いようがなく、やりきれない思いが湧いてきます。

多くの人はご存知と思いますが、リクルート事件は江副氏がリクルート社の子会社であるリクルートコスモス社が上場する前に、その株式を数多くの大物政治家を含む大勢の人に譲渡していたことが問題となった事件です。

未公開株を上場前に身近な人に譲渡することは、それほど珍しいことではなく、とくに問題となるようなことは普通はなかったようですが、政治家に利益を供与して便宜を図ってもらうという収賄性の有無が問題視されたようです。

本書にはマスコミの報道を通じて問題が拡大していく様子が、著者の内面の不安とともに詳しく描写されています。

著者は政治献金などにより政治と深い関わりを持ちすぎたことを反省されているようですが、問題が大きくなった一番の要因はバブルという時代に起こった事件であったことでしょう。

リクルート事件は1988年ですが、まさにバブルのまっただ中でした。バブルの時代に起こったというより、バブルの時代だったからこそ事件になったといえるかもしれません。

バブルの時は日本の景気はよかったのですが、不動産や株でキャピタルゲインを得た人と得られなかった人に大きな差が生じた時代でもありました。キャピタルゲインはそれを得られない人々からは、嫉妬、さらには憎しみの対象になっていたこともあったはずです。

そのようなときに、公開後にキャピタルゲインが得られるかもしれない株式を政治家に譲渡することは、世間に満ちていた嫉妬の感情のはけ口を提供するようなものです。そしてその株式は、リクルートコスモス社という不動産関連の会社です。株であることに加えて、その銘柄が不動産関連であるということもマイナス要因だったと思います。

リクルート事件があれほど大きくなったのは、キャピタルゲインに対する嫉妬や憎しみのエネルギーが日本全体に潜在していたからでしょう。国民からすると、政治家が株式を受け取るということは、政治家もキャピタルゲインを肯定しているように国民の目に映ったとしても仕方ないかもしれません。

いったんそうそのような認識が出来てしまうと、当時はいくら著者の目的が便宜を図ってもらうことでないとしても、世間的な納得は非常に得にくい状態になってしまったことでしょう。

本書には、検察の取調べで「事実でない」調書に著者が署名することになるエピソードも数多く出てきます。そうせざるを得ないという状況がまさに悲劇なのですが、その悲劇の原因は何でしょうか?

著者は司法制度の問題点も指摘されていますが、つらい取調べを受けながらも、検察の方々に同情的な記述も見られます。

現場の検察官は合法的なあらゆる手段を用いて「事実でない」調書に署名をするように著者に迫ってきましたが、その検察官の方も組織的としての職業的な圧力が上層部からあったようです。これは組織では一般的なことでしょう。

そして、検察の上層部もマスコミの報道を通じて世論の目に見えないプレッシャーを受けていたようです。マスコミによって増幅されていますが、おそらく一番パワーがあるのは世論です。

社会的正義のために活動してる検察が世論に影響を受けるのは違和感を感じるかもしれませんが、もともと正義とは何かを考えると、検察が世論を配慮して活動するのは本来の役割を果たしているということなのかもしれません。

正義というものが存在するのは、本来やりきれない感情の処理のためです。たとえば、詐欺に遭ってしまったやりきれない思いは、詐欺師を捕まえて罰することによって感情的な処理がなされ「正義」が保たれます。

そのように考えると、検察の役割は根本的には「正義」を通じて社会における感情を調整することであると考えることができます。

とくに特捜部は社会的に大きな事件を取り扱うので、その役割は社会全体の感情を処理するということになります。「正義」というものを通じて、社会全体が納得するような展開を組み立てるのが上層部の役割であり、その筋書きによって取調べなどを行うのが現場の仕事であることが本書からわかります。

このような役割は社会が要請しているので、検察が世論に配慮するのは当然といえば当然です。たとえば、リクルート事件は取調べの結果無罪ということになっていたとしたら、世論の感情が収まらずそのやりきれない感情は検察への失望と怒りという形になって表れていたかもしれません。

本書には書かれていませんが、リクルート事件の根底には人々のキャピタルゲインに対する嫉妬や憎しみの感情が存在していたと思います。数年前のライブドア事件の時も同じような感情があったかもしれません。

キャピタルゲインに対する否定的な感情は、コツコツと額に汗して働くことを肯定的に評価する人間の原始的な感情の裏返しです。世論は原始的な感情によって形成されている部分が大きいと思いますが、著者にはその原始的な感情による被害者としての部分もあるかもしれません。

バブルの時の日銀の利上げも大蔵省の総量規制も、世論の原始的な感情を調整するという意味合いもあったことでしょう。また、バブル崩壊後に銀行の不良債権処理と公的資金の注入が遅々として進まなかったのは、同様に世論の影響があったはずです。

国の公的な組織の活動は、民主主義であるからにはマスとしての国民感情によって大きな影響を受けてしまいます。公的な組織は非難される対象になりやすいのですが、それらの組織の動向は世論の非合理的な情動によって大きな影響を受けています。

マスコミによって世論が増幅されることもありますが、マスコミがそのような報道をするのはもともとは世論がそのような報道を求めるからです。マスコミも世論に影響を受けて動いています。

民主主義の欠点は、人々の集団としての非合理性に翻弄されることです。だからといって、今のところそれを越えるようなシステムは存在しません。

民主主義の問題点の解決のためには、システムをより合理的にする必要がありますが、それ以上に求められるのは、やはり一人一人が賢明になるようにものごとの認識能力を上げることでしょう。そうしないと、形を変えて本書のような悲劇はまた繰り返されると思います。



investmentbooks at 23:48│Comments(4)TrackBack(0)clip!本--経営者 

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この記事へのコメント

1. Posted by enzaix   2009年10月26日 23:06
はじめまして。

いつも参考にさせていただいています。

ちょっとジャンルが違いますが正義といえばこの本を思い出しまして、紹介します。

腰が抜けるほどのショックを受けました。

現職警官「裏金」内部告発 仙波敏郎著
講談社
2. Posted by bestbook   2009年10月26日 23:19
enzaixさん、いつもご覧いただきありがとうございます。

ご紹介いただいた本は書店で積んであるのをたまに見かけますが、中身を見たことはありませんでした。

衝撃的な内容とのことで、書店で見かけたら目を通してみたいと思います。ご紹介いただきありがとうございます。
3. Posted by enzaix   2009年11月03日 11:21
こんにちは。

またまた警察ネタですみませんが、このような本が発売されますのでご紹介します。

「あの時、バスは止まっていた」 高知「白バイ衝突死」の闇 - 山下洋平。高知白バイ事件。

ネットの情報は断片的で、一体高知で何が起こっているのかわからんという方に良いと思います。

興味がわきましたら読んでください。
4. Posted by bestbook   2009年11月04日 00:31
enzaixさん、コメントありがとうございます。

本の情報ありがとうございます。本ブログのテーマとはやや異なるので、記事にできるかどうかはわかりませんが、機会があれば書店で目を通してみようと思います。

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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