2009年11月01日
『金融先物の世界―金融先物の父“レオ・メラメド”から学ぶ』
可児 滋著 2009年11月1日発行 2310円(税込)
金融先物の世界―金融先物の父“レオ・メラメド”から学ぶ
著者:可児 滋
販売元:時事通信出版局
発売日:2009-10
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著者は金融関係の仕事を長くなさっている方です。本書の主人公であるレオ・メラメドはシカゴマーカンタイル取引所の理事長を長年勤めていた人で、先物市場に通貨などの金融商品を導入された方です。
本書は、レオ・メラメドの人生を軸に、金融を中心とした先物市場の歴史やデリバティブ市場一般について理解を深めることができる本です。本書の目次は以下の通りです。
- ホロコーストからシカゴ先物市場へ
- 金融先物市場の父、レオ・メラメド
- 先物市場の発展
- 先物市場の特徴
- 先物市場の守護神、レオ・メラメド
- メラメドの先物レッスン
- 先物市場の将来
本書はところどころレオ・メラメドが述べたことを引用しながら、著者がその言葉に関係する事柄について解説する構成になっています。著者はレオ・メラメドの知己であり、本書には著者あてのメールの文章も紹介されている部分などもあります。
現代は金融先物市場は当たり前に存在していますが、導入するまではその意義や役割について人々に理解してもらうために並々ならぬ苦労があったようです。政治的な根回しも重要だったようですが、本書ではその話も出てきます。
レオ・メラメドという方は、市場の理事など管理的な仕事をしていた方ですが、トレーディングの経験も豊富で、市場や投機に対する強い思い入れがある方のようです。本書では投機についての指南なども出てきますが、参考になる部分もあると思います。
本書では先物だけでなく、デリバティブ一般についての解説もあります。著者は過去にデリバティブの解説書も書かれている方なので、本書においてはそのあたりの解説も充実していると思います。またサブプライム問題についてのメラメドの見方などについても話が出てきます。
本書で読んでいて面白いのはメラメドの体験の部分です。それほど引き込まれないのはデリバティブや先物市場についての教科書的な説明の部分ですが、きちんと説明されているため、それらの仕組みについてあまり知識がない方には参考になる点も多いことでしょう。
本書がこの時期に出版されたのは、サブプライム問題に端を発する世界的な金融危機のため、デリバティブが悪者にされてしまうことを著者が憂慮されたということもあるのではないかと読んでいて思いました。
ある事柄が原因の一つになって問題が生じると、すべての原因がその事柄にあるとみなされて過小評価されてしまうことがあります。金融市場やデリバティブについてもそのような危険性があるので、本書ではメラメドの業績を振り返りながら、それらの有用性や役割を再評価してもらおうという目的もあるのかもしれません。
金融先物市場の導入と発展の陰には、ミルトン・フリードマンの影響も大きかったことが本書のいくつかの逸話から読み取れます。また、アメリカで市場というもの重要性について幅広いコンセンサスがあったことも、市場の発展に影響を与えているようです。
革新的なことを始める際には、そのことについて熱意を持って音頭を取る人が必要なことが多いと思いますが、本書を読むとそのことがよくわかると思います。