2009年12月21日
『強欲は死なず』
マルク・フィオレンティーノ著 山本 知子訳
2009年12月31日発行 1785円(税込)
強欲は死なず
著者:マルク・フィオレンティーノ
販売元:徳間書店
発売日:2009-12-17
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著者は長年の投資銀行家で、本書は著者の初めての小説とのことです。フランスで今年の初めに発売されベストセラーになっているようです。
本書はトレーダーの取引や内面を描写したフィクションですが、サブプライム問題に基づく金融危機の時期が題材として設定されており、この数年の金融市場に関心のある方であれば、ノンフィクション的なフィクションに感じられると思います。
トレーダーを題材に書かれている本としては、アメリカの有名な投機家であるリバモアを題材とした『欲望と幻想の市場―伝説の投機王リバモア』が有名ですが、今日紹介している本書は完全なフィクションであることが異なります。
本書もリバモアについての本も一人称が「俺」とハードボイルドな語感で訳されています。本書にはテストステロン云々と出てきますが、積極的にリスクを取るという点でトレーディングは男性的な行為なのかもしれません。
本書ではトレーディングにおける心理的な描写が充実しており、そのあたりが読みどころであると思います。トレーディングの心理について興味のない方はそれほど面白く読めないかもしれないので、万人に勧められるわけではありませんが、リバモアの本を面白いと感じた方であれば本書も同様に読めると思います。
本書では相場の動きや主人公の感情がすべて言葉で表現されています。小説なので当たり前と思ってしまうのですが、実際のトレーディングではこのようには言語化できません。
本書のようにしっかりと言語化できるのであれば、自分のトレーディングを客観的に分析できます。客観的に分析できたからといって、必ずしも感情的な問題を克服できるかどうかはまた別の難しい問題ですが、天才でない限りまずは言語化は必要なことです。
トレーディングという行為は、本来ヒトがある程度行うことが望ましかったリスクテイキングの純度を高めた行為である面があります。
身体的な面で頭脳を利用しながらリスクを取ることには人間の存在は適応していますが、頭脳的な面だけからリスクを取ることについては人間は本来適応していません。そのあたりがトレーディングの難しさの本質であると思います。
トレーディングとはやや違いますが、株式投資において投資をした理由やその結果の反省点などを少しでも書き留めておくことが勧められていることがあります。これはいったんは言語化することが重要だからです。
願望を叶えるためにはそれを書き出すとよいということもよく言われますが、これも言語化することの重要性を表しています。無意識にあるものを意識化してそれを再び無意識化する行為は、泳ぐときに水の中から息をするために顔を一瞬出すような役割があります。
自分の考えていることを自分で言語化するという行為はそれほど易しいことではないのですが、読書は他者によってなされた言語化されたものを通じて、自分の無意識を言語化するという意味があります。
本を読んで感銘を受けたり自分の気持ちや考えがすっきりしたりするのは、言語化されて整理されたがっている無意識の部分が本によってうまくまとめられるからです。
そのように考えると、本書もトレーディングを行ったことがありそのことについて釈然としない方が読むと最も意味があると思います。