2010年01月07日
『ナビゲート!日本経済』
脇田 成著 2010年1月10日発行 798円(税込)
ナビゲート!日本経済 (ちくま新書)
著者:脇田 成
販売元:筑摩書房
発売日:2010-01-10
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「ナビゲート!」とありますが、読者に対するわかりやすさをかなり意図して書かれた本です。わかりやすさを追求されていますが、一定のレベルは保っています。また、客観的な記述に努めながらも著者の主張ははっきりと述べられています。
著者は経済学者をされている方です。本書の各章のタイトルは病気の診断や治療の喩えが一貫して用いられていますが、そのあたりにも著者の工夫を感じます。
- 景気の「診断」と「治療」
- 「平熱」と「発熱」---経済政策のインパクト
- 「病状」の進行---経済の基本リズム
- 「モルヒネ」としての金融政策
- 「病巣」の「転移」と「発見」---金融危機への波及
- 「手術」の成功と「リハビリ」の失敗---小泉構造改革
- 「老化」と「生活習慣病」---これからの日本
本書は具体的な数字が数多く出てきますが、たんに数字を挙げるだけでなく、さらに日常的にわかりやすい形で表現されているところも参考になります。
本の終わりに著者が明確に書かれている提言は以下の通りです。
- 短期的には外需(タネ火)と内需(着火)に代表されるサイクルのプロセス、景気に2段階あることの認識が必要
- 中期的には家計に所得を返し、家計が望む需要が実現されるようにする
- 長期的には少子化対策に全力を挙げる
消費者中心の内需拡大や少子化対策など、現在の民主党政権の方針にかなり近い内容です。この時期に出版されているのはタイミングがよいと思います。
本書の内容については、考え方によっては異論がある方も多いと思いますが、著者がなぜそのように結論づけられているかを、著者の丁寧な解説を通じて思考過程をたどるのは経済学的に考えるトレーニングになります。
家計に所得を返す方法については、労働分配率を上げて賃金をアップさせることを提案されているのですが、企業ではなく従業員に手厚くするということです。
企業の内部留保や設備投資よりも労働分配率を上げることを重視するということなのですが、企業の競争がグローバル化した現状において企業の競争力を低下させるのではないかという懸念もあります。企業の競争力が低下すれば、結局賃金として分配できる絶対額も減少してしまいます。
個人的には家計に所得を返すことはよいとは思うのですが、家計が株式投資に関わることにより配当やキャピタルゲインの形で所得を返す方がよいのではないかと思います。個人が従業員の立場だけでなく株主となって企業を監視すると、企業の経営も改善されやすくなるのではないでしょうか。
他の国々が緊張感を持って株式会社を経営している中で、日本企業だけが株主と経営者や従業員の間の緊張感が少なくなってしまうと、日本企業の競争力、ひいては日本の国力が低下してしまいそうです。
本書は一部賛成しにくいところもあるのですが、グラフを用いたデータ分析や喩えは非常に明快でわかりやすいと思います。また日本経済を語る上でよく話題になるにもかかわらず、議論が整理されていない事柄についてもわかりやすく解説されているので、日本経済をマクロ的な視点で理解したい方にはよい本であると思います。