2010年01月12日
『不連続変化の時代 想定外危機への適応戦略』
ジョシュア・クーパー・ラモ著 田村 義延訳
2009年12月25日発行 1890円(税込)
不連続変化の時代: 想定外危機への適応戦略
著者:ジョシュア・クーパー・ラモ
販売元:講談社インターナショナル
発売日:2009-12-03
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出版された時期やタイトルからおおよその内容について想像がつく方もいると思いますが、おそらく想像されている通りの内容です。『ブラック・スワン[上]』『ブラック・スワン[下]』とテーマが似ていますが、本書の方がより読みやすく一般向けです。
本書の読みやすさは、著者がタイム誌の編集局に在籍されていたことにもよるのかもしれません。本書の目次は以下の通りです。
- 時代の性質
- 古い物理学
- 砂の山
- 崩壊した国
- 新たな技術、新たな敵
- マッシュアップ戦争
- スパイと億万長者
- 弱体化しないシステム
- 説得の限界
- ”地震”を乗りきる
- 激動の時代に生きる
本書のテーマは今回の金融危機によって盛んに語られるようになった「不確実性」や「不確定性」です。考えつかないようなささいなことから状況が大きく変化する時代になったという著者の歴史観が本書の根底にあります。原書のタイトルには"unthinkable"という単語が用いられています。
理由としては世界全体がネットワーク化しているということがあり、小さな変化が世界全体に伝播する速度が大きくなっているためです。
本書では東洋思想の影響を読み取ることができますが、著者は中国についても造詣が深い方のようです。任天堂など日本についての実例も登場しますが、時代の大きな流れが西洋からアジアに移りつつあると著者は考えているように思われます。
著者は不確実性が高まっていると書かれていますが、実は世界が不確実なのは昔からです。過去は歴史の解釈により因果関係がわかりやすくなっているので現在より不確実性が低いと考えられがちですが、昔も「クレオパトラの鼻が・・・」という言葉もあるように、局所的な小さな差異が大きな変化となることは今に始まったことではありません。
本書では柔軟であることの必要性が繰り返し形を変えて述べられていますが、このことなどもはるか昔から仏教や老荘思想などで言われていることです。本書に書かれていることの多くは、東洋思想的には昔からよりシンプルな形で伝えられているので、本書は西洋で読まれた方がよりインパクトが強い本かもしれません。
本書の読みどころとしては、現代の経済、金融、科学、国際政治などにタイムリーに関連づけてそのようなテーマが解説されていることです。
本書を読んで納得する方がいるのは好ましいことですが、おそらく本書を読んでそのまま納得できるような方は、本書を読まなくてももともと柔軟な考え方をする方です。問題なのは本書のような本に縁のない方ですが、そのような人々にいかにして柔軟になってもらうかが一番難しいところであると思います。