2010年02月25日
『自分をデフレ化しない方法』
勝間 和代著 2010年2月20日発行 840円(税込)
自分をデフレ化しない方法 (文春新書)
著者:勝間 和代
販売元:文藝春秋
発売日:2010-02-19
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最近の勝間和代さんの新刊はアマゾンのレビューにおける評価が芳しくないのですが、実際に読んでみると辛辣なレビューほど内容が悪いわけではないと思います。マイナスのプレミアムは存在感の大きさのためでしょう。
最近は日本経済の脱デフレについてもよく主張されています。本書も脱デフレがテーマになっていますが、デフレ時代における個人レベルでの対応策などもまとめられています。本書の目次は以下の通りです。
- デフレだから希望がない
- デフレ時代のサバイバル術16ヵ条
- 経済知識ゼロでもわかるデフレ
- こうやってデフレを退治しよう
- もっとお金を配ろう
本書の脱デフレの議論について知識のある方には新味はないかもしれませんが、本書は明快にわかりやすくまとめられていると思います。本書の議論にはいろいろと反論もあるであろうことは想像できますが、本書で述べられていることは一つの検討すべき考え方です。
本書の内容に興味のある方は実際に読んでいただくのがよいと思いますが、ここでは本書のタイトルやオビのサブリミナル効果について、気づいたことを書きたいと思います。
まずタイトルの「自分をデフレ化しない方法」ですが、このタイトルの意味はパッと見では多くの人はすぐに意味がわからないはずです。ちょっと混乱してしまいますが、軽い混乱は意識の検閲を緩めるのでメッセージが入りやすくなります。
「方法」という言葉が使われていることも、デフレ化しないことが暗黙の前提になっています。これが「自分をデフレ化するな」というタイトルであったとしたら、禁止的な表現により意識の警戒度が高くなりますが、「方法」という言葉は警戒的になりにくい言葉です。
「自分を」の表現により、問題を個人のものとしています。「日本をデフレ化しない方法」であれば、それほど心惹かれにくくなるかもしれません。誰でも「自分」の問題には無意識に興味を持つものです。
そしてオビです。オビは赤が目立ちますが、信号機の色に象徴されるように赤は禁止の色です。著者の勝間さんはかすかに厳しめの表情をして、はっきりとバッテンのジェスチャーをしています。
これらは非言語的な禁止のメッセージですが、何を禁止しているかというと明らかにデフレです。タイトルとオビから「デフレはダメ」というメッセージが強烈に伝わりますが、これは以上のような理由により無意識に入りやすくなっています。
また、オビには文章が書かれていますが、いくつか抜き出します。
「あなたが抱える悩みの8割はデフレが原因です。」
「お金は感謝と希望のあらわれです。デフレとは、世の中に流通するお金の量が少なくなったため、社会から感謝と希望が減ってしまっている現象をさします。」
悩みがデフレと数字を用いて定量的に結びつけられており、数字を用いることにより表面上の説得力を増しているように思われます。
社会から感謝と希望が減ることに心の底から逆うことのできる人は少ないと思いますが、このように書かれるとデフレ脱却も無意識のレベルで肯定するしかなくなります。
本書の第二章は「デフレ時代のサバイバル術16ヵ条」という内容になっていますが、実はこの章は、先に本書のタイトルとオビがあって、そのタイトルと本文の内容の整合性を付けるために書かれているだけなのかもしれません。
本書は実際に購入されていなくても、書店の平積みを見たり少し手にとって眺めるだけで著者のメッセージが伝わるように作られていると思います。
大ざっぱに分けると人に影響を与えるためには、意識のレベルで理解して納得してもらうか無意識のレベルでメッセージを伝えるかのいずれかです。一般の本はおもに前者ですが、本書は両方とも用いられているようです。
勝間和代さんの最近の本のレビューに辛辣な意見が多いのは、いくつか理由があると思いますが、その一つにメッセージが心の深くに入ろうとするため、潜在意識のレベルで抵抗と葛藤が生じ、それが意識できないままアンチ的な感想として表現されることもあるのかもしれません。