2010年03月03日
『なぜ人は市場に踊らされるのか?』
竹中 正治著 2010年2月25日発行 1575円(税込)
なぜ人は市場に踊らされるのか?
著者:竹中 正治
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2010-01-25
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著者は日本の銀行で国際金融やエコノミストの仕事を長くしていた方で、現在は大学で教鞭をとられています。本ブログでも、過去にも何冊か著書を紹介させてもらったことがあります。
本書のタイトルはなかなか魅力的な響きがありますが、本書のテーマは市場心理というよりもむしろ金融、とくに国際金融です。本書の目次は以下の通りです。
- マネー資本主義批判という誤解、金融投資立国論という幻想
- なぜ人は市場に踊らされるのか?
- アリの集合的知性と人間の集合的愚性?
- ベビーシッター組合と景気対策
- 日本人はなぜアメリカ経済の本質を見誤るのか?
- バランスシートがわかれば世界がわかる
本書は世間の大多数の通念とは逆に思われるような、しかしながらより深く考慮された話が数多く出てきます。著者の立場は、市場は間違うこともあるというスタンスです。
本書で最も印象に残った章は、第五章の「日本人はなぜアメリカ経済の本質を見誤るのか?」です。定量的な分析を元にして、誤解されやすいアメリカ経済の現状や今後についての見通しなどが語られています。
世界全体、そしてとくに日本はアメリカに長年依存してきました。依存している存在に対しては、過度に賞賛したり否定的な感情を抱きやすいものですが、日本にとってアメリカはそのような面があります。
またさまざまなアメリカ経済についてのステレオタイプがありますが、本書ではそれらのステレオタイプは数字的に分析すると、必ずしも正しくなく、むしろ逆のことすらあると述べられています。
本書ではバランスシートやDCF法などの金融の基本的な、そして重要なところについても解説されているので、現場の解説を通じて金融理論の一部を学ぶこともできると思います。
日本については、デフレ脱却、財政再建、消費税のことなど、今後の日本経済にとって重要と思われる諸テーマが論じられており、著者の主張についてはさまざまな考え方があるとは思いますが、興味深く読めると思います。
本書の終章は「「みなさん、そうされてますよ」という呪縛から目を覚まそう」となっており、期待と楽観に満ちた締めになっています。本書を読むと、世界経済の将来に対して冷静な楽観性というものを抱けるようになるかもしれません。