2010年04月08日
『日本経済「常識」の非常識』
上野 泰也著 2010年月4月6日発行 1260円(税込)
日本経済「常識」の非常識
著者:上野 泰也
販売元:PHP研究所
発売日:2010-03-24
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著者は「悲観派」として有名なエコノミストです。日本経済の先行きについて悲観的であることは、本書でも御自身が書かれています。
書き下しのものもいくつかありますが、本書の内容は雑誌『Voice』で過去一年くらいに渡って連載された、おもに日本経済についての考察が集められたもので、経済エッセイとでも言うべき内容です。本書の目次は以下の通りです。
- 「米国の金融覇権」は続く
- 高級車ブームにご用心
- 地銀の危機と道州制
- ミステリーの中の大恐慌
- 数字で読む「クルマ離れ」
- 教壇廃止が社員を弱くする
- なぜ円だけが乱高下するか
- ここまで深刻「食のデフレ」
- 個人消費を伸ばす「滞在人口増加率」
- 投機は市場の「必要悪」
- 「サイボーグ経済」崩壊の始まり
- ”ドル”は中国の不良債権
- 「不均衡是正論」の本当の狙い
- オーストラリア絶好調の理由
- 消費にかかる「時間」というコスト
- 「バブル崩壊」は予防できるか
- 金融政策はアートかサイエンスか
- 黒子役に徹し、活気づく銀行
本書は雑誌の連載なので少しだけ昔の論考になりますが、それぞれの章の終わりに【その後に起こったこと】として、著者の予測や考察の結果がその後どのように展開したかが述べられているのが、読んでいてとくに面白い部分です。
あまり時間が経っていないにしても、著者の多くの考察や予測は、その予測の流れの延長として現実化している部分が多いことに驚かされます。著者は悲観的な感じがするのですが、悲観的な方が現実に、少なくとも現在の日本の現実に即しているのかもしれません。
著者は今後の日本の将来についても引き続き悲観的です。その根本的な理由は、少子高齢化の人口動態にあるようです。
著者の経済予測は当たる、そしてその内容は悲観的と来れば、日本の将来は明るくないようですが、現実には予期しなかったよい出来事が起こり得ます。予期できないのでそれは何か分かりませんし、予測もできません。しかしながら、それが一定の割合で起こることはたしかです。
そう考えると、将来の日本にとって大事なのは、その予期できないよい出来事を起こりやすくするような環境を整えることです。
そのような環境の要素の一つに、楽観的であることがあります。過度な楽観は現実から乖離してマイナスの要因になりますが、適度な楽観的なムードは予期せぬ技術革新やビジネスを出現させやすくなります。
現実の冷静な分析に基づいた悲観的な予測は必要ですが、全体のバランスを考えると、すこしばかり現実から遊離するくらいの楽観的な希望や夢がある方がよいと思います。
そのあたりのバランスを取ることができれば、著者の考察や予測を読むことは、より意味が出てくることでしょう。