2010年04月19日
『経済危機のルーツ』
野口 悠紀雄著 2010年月4月22日発行 1890円(税込)
経済危機のルーツ
著者:野口 悠紀雄
販売元:東洋経済新報社
発売日:2010-04-09
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野口悠紀雄氏の新刊ですが、今までの総まとめのような本です。本書は一年間にわたり経済誌に連載されていたものに加筆・修正されたものです。1970年代からの世界経済と日本経済のみならず、あとがきにもあるように氏の仕事の個人史的な意味もあるようです。
経済についての本は、個人的な体験が織り交ぜられていると読みやすいものになることが多いのですが、本書もそのような点はあると思います。本書の目次は以下の通りです。
- 世界経済の枠組みが1970年代に作られた
- 経済思想と経済体制が1980年代に大転換した
- ITと金融が1990年代に世界を変えた
- 1990年代はアメリカとイギリスの大繁栄時代
- 未曾有のバブルとその崩壊:2000年代
本書に書かれていることは、氏が過去に繰り返し数多くの著作で述べられていることです。そのような意味においても総まとめ的な内容です。
個人的に興味があったのは、今回のバブルと世界的な金融危機の原因の一つとなったアメリカと金融工学について、氏が現在の時点でどのように思われているかです。氏は以前から金融工学を積極的に評価されており、推進されている方でもありました。
結論から述べると、その立場は現在も変わらないようです。日本に対して弱気、アメリカに対して強気であることにも変化がありません。今回の金融危機は、金融工学自体の問題ではなく、金融工学という便利で有用なツールを上手く扱えなかった人間の方の問題とされています。
日本について弱気なのは、時代の大きな流れに応じて経済構造が変化しないことや外国に対する閉鎖性などであり、これらの主張も以前から同じです。アメリカに対する強気はこれらの裏返しです。
野口氏の本は、日本がどのような状態か、どのような方向に進むとよいかについて納得のいく分析が豊富なのですが、日本がなぜ変化できないのかについての考察はあまりされていません。いろいろと思われていることはあると想像するのですが、そのあたりもできれば読んでみたいものです。
氏に限らず、日本については現状と方向性の分析すぐれたは多いのですが、具体的にどのように変化させるかについての考察は少ないかもしれません。そのような考察が表に出にくいことが、日本が変化しにくい状況をよく表しているのかもしれません。