2008年03月03日
『世界を動かす人脈』
中田 安彦著 2008年2月20日発行 798円(税込)
欧米を中心とした政治家、富豪、名家などが集まって会議を開き、世界全体に影響を与えている構造がテーマになっています。巻末の参考文献やインデックスも充実しており、二次的な資料としての価値もあると思います。
本書に書かれているような内容は、陰謀史観の文脈で語られることが多いのですが、本書はなるべく「事実」から逸れた推測に陥らないよう注意深く書かれているようです。
入り組んだ人間関係とともに固有名詞が次々と登場してくるため、決して読みやすい本ではありません。名前を聞いたことがある人もいるのですが、あまり馴染みのない人物も登場します。それぞれが数千億円規模の資産家なので、その世界では有名なのでしょう。
日本人はほとんど出てきません。今のところこれらの人脈においては、日本人は蚊帳の外のようです。日本が本書に書かれているような世界の舞台に参加し始めたのは明治以降であり、第二次世界大戦の時にリセットされました。
この人脈に加わるのためには、おそらく力強さと品が必要なのではないかと思います。言い換えると、男性性と女性性です。日本は戦前までは男性性が強く、戦後は女性性に偏って発展してきました。バランスのよい時期は明治以降今に至るまでありません。もしも加わることがあるとすると、戦前の独立性と戦後の豊かさの両方が調和したときでしょう。
日本人が加われない世界的人脈というとどうしても陰謀論的にとらえられ、被害的になりがちですが、お金持ちが集まるとネットワークができるのは自然なことです。歴史的な問題で、今のところ日本人との関係が少ないのでしょう。善悪はここでは論じませんが、日本が将来バランスよく発展すれば、人脈に加わる人も出てくるでしょう。
本書を読むと、「世界を動かす人脈」は、資本主義と密接に関係していることが分かります。「世界を動かす」人々にとっては、資本主義、さらにいうと株主資本主義は民主主義の衆愚制となりがちな欠点を補うための手段としてとらえられているのではないでしょうか。
本書に書かれているような人脈があることは、驚くべきことではありません。もしも、そのような人脈が全くないとすると、その方が驚くべきことです。本書の内容を被害的に受け取るかどうかは、人によって大きな違いがあるとは思います。



