2008年03月04日
『不倫の惑星』
パメラ・ドラッカーマン著 佐竹 史子訳
2008年1月25日発行 1680円(税込)
タイトルからは内容がやや分かりにくいですが、「世界各国不倫事情」とでもいうべき本です。この種の本はどのような人によって書かれたかということも重要です。本書はウォールストリート・ジャーナルの記者だったアメリカの既婚女性による本です。
著者は世界中を自分で取材して回られており、アメリカ、フランス、ロシア、日本、アフリカ、インドネシア、中国の不倫や浮気などの婚外交渉を中心とした性の現状について、統計的な資料も引用しながら、現地でのインタビューが読みやすくまとめられています。
世界各国のお国事情の違いが興味深いのですが、男は浮気する、女は浮気をされたくないという生物学的原則には違いがありません。宗教的、経済的、人口的な事情で違いが出ているだけのように思われます。
日本語の不倫という言葉は、よく考えてみると変わった言葉です。行為を示すはずの言葉に行為を裁くニュアンスが込められています。不倫は本来は不貞と表現されるべき言葉です。言葉の意味合いを強くしているのは、言葉自体に抑止力を持たせるためかもしれませんが、あまり効果はないようです。
婚外交渉に一番厳しいのはアメリカのようです。彼の国では夫の婚外交渉は、「裏切り」とみなされ、その行為には「罪」のニュアンスが加わります。夫婦間でその問題を引きずり、長年解決できずに専門家の助けが必要なことも多いようです。だからといって、アメリカの婚外交渉の率が低いわけではないようです。
不倫が多い国としては、ロシアがあるようです。理由としては、男性が早死になので、男女比の偏りがあるためです。65歳の男女比は、女性100人に対して男性46人、圧倒的に男性が少なくなっています。具体的な状況についても述べられていますが、やはり男女の力関係は需給で決まる面も強いようです。無人島に女性10人、男性2人で流されたらどのような状況になるかを想像してみれば分かります。
また、経済的な側面も強いようです。国が貧しいほど、不倫の率は高くなります。本書にはその理由は書いてありませんでしたが、基本的にお金の相対的な価値が高くなるので、お金を稼ぐ男性の力が強くなるためでしょう。
日本についても取材されていましたが、日本は夫婦間でのセックスレス、風俗などの観点から主に述べられていました。他の国と比較すると、ややキワモノ的な扱いといえるかもしれません。著者の日本についての書き方は、他国との違いを際だたせようとしたためであるのでしょう。やや偏っているように感じましたが、新鮮な感じもしました。
日本の実状は、本書で述べられているフランスに近いと思います。フランスでは、ある程度の婚外交渉を妻がうすうす気付きながらも、それを突き詰めないところに特色があるようです。アメリカでは婚外交渉があった場合、夫婦間でとことん問題を突き詰めて解決しようと努力するようです。場合によっては、日本にもアメリカ的な場合もあるかもしれません。
本書の根底には、アメリカにおける倫理的に厳格な一夫一婦制を相対化しようという著者の意図があるように感じられます。厳格な一夫一婦制は、ある人々からは理想的な場合もあるのでしょうが、本来の男女の生物学的構造からずれるため、その歪みとして不倫問題が生じた場合、なかなか心の傷が癒えないという副作用もあるようです。
遺伝的に考察すると、男性が一人の相手としか性交渉を持ってはいけないということは、女性からすると性交渉をもつ男性のグレードをその女性と釣り合った男性から3段階くらいダウンさせることに相当すると思います。男性にとって付き合う女性の数を制限されることは、女性が魅力がほとんどないと感じる男性と付き合わなければいけないのと同じくらいのつらさがあるはずです。
厳格な一夫一婦制は、男女の生物としての生理からずれています。そのずれが国ごとの諸条件でとのように表れているかということが、本書のテーマです。本書に書かれていることからすると、いずれの国においても、条件を整えれば一夫一婦制が機能して、男女双方がハッピーという具合には、残念ながらならないようです。ヒトがさらに進化すれば違ってくるかもしれませんが、万年の単位が必要でしょう。