2008年07月11日
『中国発世界恐慌は来るのか?』
門倉 貴史著 2008年7月25日発行 798円(税込)
門倉貴史氏の新刊です。タイトルはセンセーショナルですが、本文は中国経済の現状が冷静に幅広く書かれており、不安をあおるような内容ではありません。
中国の今後については、可能性として3つのシナリオが想定されており、それぞれ「バラ色に彩られた最良のシナリオ」「問題先送りの灰色のシナリオ」「崩壊への暗黒のシナリオ」として解説されています。
将来的にいずれのシナリオが実現するのかは、誰にもわかりません。共産党の幹部ですら諸問題に対処するだけで精一杯でしょう。せいぜい確率的に漠然とした予想ができる程度です。
ちなみに著者は「バラ色に彩られた最良のシナリオ」が60%と予測されており、中国の将来についてはどちらかというと楽観的な見解を持たれているようです。ただし長期的には、高齢化が急速に進行することを懸念されています。
中国を一つの銘柄として考えると、ハイリスクハイリターンの銘柄です。良くなるにしろ悪くなるにしろ幅が広いことでしょう。
もっともうまくいった場合は21世紀の覇権国になるでしょうし、最悪の場合は内乱の頻発をきっかけに共産党政権が崩壊、まとまった国としては消滅してしまうかもしれません。国が分裂するような大きなことも、きっかけはささいな事故から生じることがあるため、どうなるかは偶然の要素にも左右されることでしょう。
個人的には、中国共産党政権は現実的な問題対応能力が高いと考えているので、問題は生じながらも乗り越えていくのではないかと予想しています。中国が崩壊してしまうとしたら、現実を把握し解決する能力が乏しい人が政権のトップに就いてしまった場合だと思います。
現在の中国の共産党は独裁政権ですが、今のところは独裁的な部分が良い方向に作用しているように思います。プラトンの哲人政治ではありませんが、トップが優秀であれば独裁的なことが良い場合もあります。また逆に、民主主義でも衆愚的になることもあります。
本書にも具体的に著者の体験として書かれていますが、中国には日本人の感覚からすると信じられないくらいマナーの悪い人がいます。日本人はマナーの悪さを人間性の評価として悪い方向に過大に評価する傾向にあり、そのマナーの悪さの過大評価が、中国の国としての過小評価につながりやすい部分もあります。
昨年中国に行ったとき本屋に入りましたが、床に座り込んで本の内容を自分のノートに長時間書き写していた現地の人がいました。そのようなことは、日本人の感覚では考えられません。マナーは悪いのですが、書き写していた本は内容的に高度な本でした。
中国の本屋に行くとわかりますが、レベルの高い本が数多く出版されており、一部の人々の文化的レベルは非常に高いものがあります。レベルが高い本をマナー悪く書き写すこと、そのことは現在の中国を象徴しているようです。