2008年07月13日
『プロ棋士の思考術』
依田 紀基著 2008年6月27日発行 735円(税込)
プロ棋士には将棋と囲碁の両方がありますが、本書は囲碁の方です。著者の依田紀基九段は数多くのタイトルを獲得されている方です。将棋のプロ棋士の方が書いた本がよく売れましたが、今度は囲碁の番でしょうか。
プロ棋士による本が売れるのは、プロフェッショナルが尊重される時代状況の影響があると思われます。プロ棋士の考え方や生き方に、仕事や経営のヒントがあると期待されているのかもしれません。
将棋や囲碁のプロ棋士は小学校の頃からその道一筋の人生を送られています。プロフェッショナルとしての訓練を開始するのは、一般の仕事より10年くらいは早くなっています。もともと幼い頃から才能がある人達が選ばれた集団の中で、生き残りをかけて切磋琢磨を重ねるので、プロ棋士の力には凄みがあります。
プロ棋士の凄みについては、将棋や囲碁についてある程度の知識や関心を持たれているならばわかると思います。
本書も著者の修業時代のことが書かれています。才能があっただけに途中までは順調に進まれたようですが、一人暮らしを始めた頃から遊びにはまってしまって、精神的に一山越えなければならなかった体験なども語られており、興味深く読めます。
あるレベルまで到達すると、技術的な面よりも精神的な面が重要であることは、道に通じる芸事であれば共通しているようです。プロが勝ち続けるための要素が、「勝ち続けるための八つのK」として挙げられています。
- 感動
- 繰り返し
- 根本から考える
- 工夫を加える
- 感謝
- 健康
- 根気
- 虚仮の一念
一般の仕事においても通用する考え方です。最後の「虚仮の一念」がわかりにくい言葉ですが、これは「愚か者でも一心に一つのことをやれば、目的を達せられる」という意味であり、本書全体を貫くテーマとなっています。
中国や韓国の棋士との交流についても書かれていますが、プロの世界ではその世界に対する熱意と想い、そして実力があれば国を超えた交流ができるようです。このことは囲碁のみならず、専門家同士であれば当てはまると思います。お互い切磋琢磨していれば、国際交流もスムーズになるのではないでしょうか。
最後の方でいじめや政治などについて、本書のテーマからやや離れた話も出てきますが、これは著者が自分が思っていることをそのまま素直に書いているためでしょう。
本書は男性性が強く表現されている本ですが、実力が結果としてはっきり現れる囲碁や将棋のプロの世界は男性的な世界であることを考えると、内容から男性性を強く感じるのは不思議ではありません。



