2008年08月16日
『男というもの』
渡辺 淳一著 2001年1月25日発行 580円(税込)
10年前のベストセラーが文庫になったものですが、文庫になってからも7年以上経ちます。しばらく前に同じ著者の『これだけ違う男と女』を紹介しましたが、『これだけ違う男と女』は本書の続々編であり、オリジナルな主張は本書にあったようなので、さかのぼって読んでみました。
本書は著者が単独で書かれた本ですが、『これだけ違う男と女』は著者が男性の本質について数名の女性に話をする内容になっており、本の形式が異なります。まとまりは本書の方がよいのですが、男女の違いが際だった形で表現されているという点では、前回の本の方が面白いかもしれません。
一昨日紹介した『浮気論』は風俗で働いた経験のある女性が男女関係の一面の本質を、そして本日の本は性愛小説のベストセラー作家が男性の本質を表現しています。
本書は男性の性愛について、男性の立場からほぼ男性の発達段階に応じて筆が進められていきます。章のタイトルは以下の通りです。
- 幼少期
- 戸惑いと決断
- メンタルな性
- 処女願望
- 肉体の記憶
- なぜ”風俗”に行くのか
- 結婚をめぐって
- エクスタシーへの招待
- 種の保存
- 浮気と本気
- 社内恋愛
- 妻の浮気
- 絶対愛とは
- 別れのかたち
- 夢と現実
- 離婚信号
- 弱気もの
- 女の時代
本書は『婦人公論』に連載されたものがまとめられており、もともとは女性向けに書かれた文章です。数多くの女性に読まれているはずですが、理解はされたとしても共感はされていないでしょう。理解することに共感が必要であるとすると、理解されていないということになります。
本書を読んで男性が本質的に浮気をしたい生き物であるということを理解したとしても、「ああ、男性って浮気をしたい生き物なのね。自分は彼を愛しているから彼の望むことをさせてあげたい。彼に浮気をさせてあげなくちゃ。」とは思わないことでしょう。
おそらく譲れるぎりぎりのラインは「ああ、男性って浮気をしたい生き物なのね。自分は彼を愛しているから、彼の望むことについて邪魔をしたくない。自分との関係を壊さず、自分に絶対ばらさないようにしてくれるのなら仕方ない。」くらいでしょう。
前者の発言には理解と共感がありますが、後者には理解はあるものの共感はありません。どちらがより現実に近いかというと、後者の方です。男女はお互いがんばれば理解は可能ですが、共感は困難です。
男女間に本当の愛があるとすると、お互いのことについて完全に共感はできないことを認めつつも理解しようとすることです。男性に対して本当の愛がある女性であれば、本書の内容は共感できないにしても理解しようと努めることでしょう。
女性が女性の本音を書いた『女というもの』という本があれば、ぜひ読んでみたいところですが、寡聞にしてそのような本に目を通したことがありません。おそらく女性に対する男性の愛は言語的に表現されない女性の本音を読み解くことを含むからです。
女性は男女間のことについて言語的にはっきり表現されていることを理解するのが苦手ですし、男性は男女間のことについて非言語的に暗示されていることをつかみ取るのは得意ではありません。お互いやりづらいことを相手のために行うのが本当の愛なのでしょう。



