2008年08月17日
『容疑者ケインズ』
小島 寛之著 2008年8月17日発行 1200円(税込)
容疑者ケインズ―不況、バブル、格差。すべてはこの男のアタマの中にある。 (ピンポイント選書)
著者はもともとは数学畑の方ですが、現在は数理経済学や意思決定理論を御専門にされている方です。新書で経済や数学のやや数理的な啓蒙書をいくつか書かれています。
あとがきによると、著者が経済学の道に転身されたのは、ケインズ理論との出会いがきっかけになっていると書かれており、本書の内容は著者にとって思い入れのあるもののようです。
本書は140ページ程度の短さですが、テーマが絞られており、内容がぎゅっと詰まっています。章は3つしかありません。
- 公共事業はなぜ効かないのか---「一般理論」の先見と誤謬
- バブルの何がまずいのか---不確実性と均衡
- 人はどのように「誘惑」されるのか---選好と意思決定のメカニズム
第1章ではケインズ理論の解説とその限界や誤りについて述べられていますが、そこから貨幣や価値についても著者の考えなどが述べられており、興味深く読めます。ある程度専門的な用語が出てくるので、用語に馴染みがなければ頭を使う必要があります。
公共事業の問題などは、今後しばらくは再び現実の社会においても話題になる可能性もあり、再考の必要が出てくるかもしれません。本書では格差問題とも関連づけて述べられていましたが、やはりポイントとしては公共事業が価値を創り出しているかどうかです。
価値を生み出さない事業は、民間であれば倒産によって淘汰されますが、国家は最後の最後まで破綻しないので、事業の本質的な価値にかかわらず継続しやすいというのが一番の問題点です。
国家にしか行えない時期や、国家でしか行えない規模の事業もあるので、公共事業も必要なときはあると思いますが、その有効性を保証する仕組みが必要です。その仕組みができるかどうかからの議論も必要かもしれません。
第2章では株価の動きやバブルについて議論されています。ある程度数理的な議論もあり面白いのですが、著者が学際的な方であることに拠る面もあるかもしれません。ケインズに関連したこととしては、株式投資について「美人投票」の喩えや、自らファンドマネージャーをしていた話などが出てきます。
サブプライム問題も「ナイトの不確実性」を用いて解説してあるところなども、タイムリーでよかったと思います。
第3章では意思決定理論の解説があります。感覚的には当たり前なことについて定式化される過程が読みどころです。日常的には当たり前のことをわざわざ抽象的に定式化するのは、抽象的な思考に慣れていないと必要性がわかりにくいかもしれませんが、定式化するとそこから飛躍が生じることがあります。
本書では日常的な感覚に馴染みすぎて当たり前と思っているいくつかのことを、著者の解説により別の視点から眺めることができるのが面白いと思いました。例えば、「お金をためることで、「優柔不断である権利」を手に入れる」などという考え方です。
理系の啓蒙書では多いのですが、経済の本で本書のような本はありそうで実際はあまりありません。本書の面白さは、著者が理系出身であることが関係しているのかもしれません。
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この記事へのコメント
コメントありがとうございます。
目の付け所がさすがですね。本書は読みごたえのある本です。本書に載っている参考文献も面白そうだと思いました。
最近自分は経済の本はなかなか読むところまで行きません・・・。
リチャード・クー(また同じこと言ってるのか?)、金子勝(批判だけして終わりか?)、山崎元(あんただから簡単に転職できるんだよ)、小幡績(リスクテイクバブルは日経掲載文で充分かな〜)の新刊も手に取ったのですが、上記のような買わない理由?をつぶやいて終わりです。(いかんな〜)
ケインズさんは、「マクロ経済学の教科書」イメージとは裏腹に、「投機の心理学」でも巨匠らしいので、この本も参考になるのだろうなと、横目で見ているところです。(苦笑)
お書きになっている著者の方々の印象については、なるほどと思いました。一冊の本を読むのはそれなりの時間がかかるので、買わない理由も浮かびやすいと思います。
読書は楽しいのですが、世の中には本を読むこと以外にもたくさん楽しいことがあるので、買わない理由を考えてそのままというのもありかなと思います。


