2008年08月19日
『タクシー王子、東京を往く。』
川鍋 一朗著 2008年5月30日発行 1418円(税込)
本書の著者は社長といっても、まだ30代の方です。アメリカでMBAを取得された後大手コンサルティング会社で勤務され、経営状況が厳しかった家業のタクシー会社を建て直されたそうです。
本書の面白さは、社長自ら現場の最前線に単独で出るというところにあります。普通は社長が現場に出るにしても、多くの社員に囲まれた状態ですが、タクシードライバーという形態は、ほぼ一人で現場に出ないといけません。
また、ほとんどの人がタクシーを利用したことがあるため、その業界の現場における内部事情が書かれているということも、面白さの要因としてあると思います。さまざまな乗客とのやりとりや、そこから生じる著者の心理の動揺が読みどころです。
個人的には数字面も興味深く読めました。ドライバーの取り分は売り上げの60%強、日本全国のドライバーの数は35万人、1日の売り上げは5〜10万程度になることなどです。
ドライバーの方にチップを与える乗客も意外に多いようです。ちなみに、本書の著者の実感からは、売り上げの1%程度のチップをもらうことになるそうです。前記1日の売り上げからは、1日当たりのチップは500〜1000円くらいということが分かります。
本書に書かれているのは東京のドライバー事情なので、都内で車の運転をする人の方が面白く読めるでしょう。抜け道ガイドなどの解説もあります。
世の中にはさまざまな職業がありますが、それぞれの職業について本書のような面白さがあるはずです。現場での経験がある書き手がいれば職業の数だけ面白い本ができることでしょう。職業になることはそれぞれ独自の奥深さがあるはずです。
本書は体験記として面白いのですが、経営的な側面もあるように思います。本書を読んだ人は、道行くタクシーの中で日本交通のタクシーに注目することでしょう。そして、ドライバーになろうとする人も日本交通を考えることでしょう。
なんといっても社長自身がドライバーの仕事を直接体験して、その面白さを自ら本に書いて伝えています。本書には会社の売り上げをアップさせ、従業員を集めるコストを低下させる働きがあると思います。
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この記事へのコメント
本書は、bestbookさんの言う通り、
単にタクシー業務の内幕だけでなく、
いろいろな視点で読むことができますね。
私は普段、タクシーを利用することが
ほとんどないのですが、夏休み中の旅行では、
それなりに使う機会がありました。
チップを渡す際も、本書の内容が頭をよぎり、
いつもより多めのチップになった気がします。
タクシーのドライバーの方にチップを
渡すのは、その場限りのやりとりなので
純粋に与えることができる喜びが得やすい
と思います。自分もタクシーはほとんど
乗らないのですが(汗)。
お互いささやかな喜びですが、チップの
コストパフォーマンスは高いとようです。
少しのお金で全体の幸福感が増すように
思います。
早速訂正しておきます。名前が同じの別の会社へのリンクにしてしまいました。



