2008年08月28日
『エコノミストたちの栄光と挫折 ─路地裏の経済学・最終章─』
竹内 宏著 2008年9月4日発行 2100円(税込)
著名なエコノミストであり、30年近く前に一世を風靡したベストセラー『路地裏の経済学』の著者の最新作です。『路地裏の経済学』はその後もさまざまな形で続編が出ており、本書もサブタイトルが「路地裏の経済学・最終章」となっています。
著者は、長年にわたり現在は新生銀行となって再生されている長銀(日本長期信用銀行)の調査部でエコノミストとして仕事をされていました。本書は著者が仕事を始めてから現在に至るまでのことが書かれています。本書は著者のキャリア史であり、長銀と長銀調査部の歴史であり、そして戦後日本経済史でもあります。
著者が長銀という国策銀行の中枢で戦後日本経済の分析にどっぷり浸られていただけあり、本書を読むと戦後日本経済の流れがよくわかります。戦後日本経済を形作ってきた方々も本書に登場するため、内容に臨場感があります。
全体的に淡々とした文章で書かれているのですが、その淡々とした文章の中にもそこはかとないユーモアや感情の表現を感じることができるのが不思議であり、手本にしたいような文章です。
石油ショックなどによるいくつかの不景気はありましたが、バブルが崩壊するまでの日本経済は世界の歴史に残るくらいの高度成長であったため、本書を読んで日本の過去を振り返ると日本人としては勇気づけられるものがあります。
バブル崩壊後の停滞期から最近に至るまでのことも同じような筆致で書かれています。バブル崩壊による不良債権で長銀は潰れてしまいましたが、本書にはそのあたりのことについてはあまり詳しく書かれていません。
これは長銀調査部が経営の中枢部から距離があったこともあるのかもしれません。距離があったので、本書の随所で紹介されている優れた研究が可能であったのでしょう。
日本経済は現在あまりよい状態ではありませんが、原油高、ドルの下落などは状況は異なるとはいえ、過去にも似たようなことがありました。全く同じ状況ではありませんが、歴史は繰り返すので本書から学べることは多いはずです。
過去に学べば同じような失敗は繰り返さないはずなのですが、そうでもないということは過去に学べていないということです。
本書を読むと、日本経済の発展の要所要所ですぐれた個人の考えがうまく活かされていることがわかります。日本の場合、国の発展の限界は、その国に存在する優秀な人とその優秀な人を実際に活用できるシステムの限界にあるのかもしれません。
明治維新にしても戦後にしても、日本が大発展したときは優秀でやる気のある個人の力が押さえつけられることなく活かされたときです。おそらく、現在の日本にも日本をさらに発展させることができるような考えを持っている人はいるはずですが、どうもうまく活かされていないように思います。
戦後日本の経済成長は発展途上国の一つのモデルになるので、本書は途上国の方が読むととくに参考になるのではないでしょうか。本書に著者が途上国に行かれる話がよく出てくるのもそのためであると思われます。
本書は文章が読みやすくポイントが押されられているので、戦後の日本経済史を概観したい方にはすすめられると思います。また、過去のことだけでなく、今までの日本の歴史を踏まえた上でこれからの日本の進むべき道についての提言もあり、傾聴するべきであると思われます。