2008年09月22日
『反米経済』
門倉 貴史著 2008年9月30日発行 1575円(税込)
門倉貴史氏の新刊です。今回のテーマはアメリカ経済の凋落ですが、グローバルな幅広い視野と具体的な数字を用いての定量的な解説は今までの著作と同様です。
本書は以下の通り四つの章に分かれていますが、今回の金融危機についてもかなりの分量を割かれており、出版された時期も時流に合っていると思います。
- 終わりを告げる「米国一極集中時代」
- 「多極化」に突入する世界経済
- 米国に反旗を翻す国々
- 「米国依存症」にかかった日本経済が抱えるリスク
今回の金融危機を象徴的な出来事としてアメリカの長期的な下落トレンドが始まったかどうかは将来の歴史が明らかにすると思います。アメリカという銘柄がもしも長期的な下落トレンドに入ったとしても、株と同じように一直線に下げるということはないでしょう。
長期的なトレンドとして株が下がるときは、途中で上がる局面も織り交ぜながら気が付いてみたらかなり下がっていたという形になります。もしも長期的にアメリカが下降トレンドにあるにしても、盛り返す局面は何度も出現することでしょう。
ひょっとすると国としてのアメリカのピークはITバブルの頃だったのかもしれません。ITバブル崩壊時やその後の9.11の頃に経済を引き締めてつらい思いをしても出直すべきだったのかもしれませんが、逆に金融を緩和して住宅バブルを引き起こし、借金による消費を促進してしまいました。その分、傷が深くなってしまったようです。
本書では世界経済について幅広く述べられていますが、BRICs以外のふだんはあまり話題になることのない国々についても述べられています。中立的な視点で世界経済を眺めると、おそらく本書に書かれているような内容になるのかもしれません。本書の記述から日本で報道されている内容が親米に偏っていることが逆に分かります。
親米に偏っているのはわが国の戦後の歴史的な事情を考えると当然なので、そのこと自体の仕方ないと思いますし、アメリカの成長に乗れたため今までは戦略的にも結果的によかったかもしれません。最近は日本ですらアメリカについての否定的な話題が多くなっていることがアメリカの状態の悪さの程度を暗示しています。
戦後長期にわたって日本はアメリカの子会社のような状態が続いてきましたが、親会社の業績が長期的に悪くなりつつあり、さらに他の数多くの会社が力をつけつつある現在においては、それらの会社を知り、分析し、さらには最も自社にとってメリットがありそうなところと幅広く関係を持つのは、日本という会社が生き残るために欠かせないのかもしれません。
社内においても問題が山積みなのに、対外的な圧力も強まってきそうです。大変な状況になりつつあると考えられますが、対外的なプレッシャーがある方が緊張感もあるため、内部の問題に向き合わざるを得ないので、よい方向に進む可能性もあると考えるのは楽観的に過ぎるでしょうか。
本書は今後の日本にとって重要性が増すと思われる世界経済についてバランスのよい視野を得るために役立つ本であると思います。



