2008年09月29日
『営業と詐欺のあいだ』
坂口 孝則著 2008年9月30日発行 777円(税込)
著者紹介によると、著者は現役のバイヤーをされており、「数千人の営業マンから数々の売り込みを受けることで、「本当に買いたくなる営業テクニック」に精通」されているとのことです。
本書には営業から詐欺まで、著者が体験されたものから著名な本に書いてあるものまで、売り込みについてのさまざまなテクニックが解説されています。
本書には撃退法についても最後に書かれており、ビジネスをされている方でなければその部分が最も参考になると思うのですが、おそらく本書を買って読もうとする方は、どちらかといえば売る側の方が多いと想像されます。
ビジネスパーソンが営業やマーケティングの本を読むと感じるのは、さまざまなテクニックについてどこまで許されるのかということでしょう。これらの分野に関しては最近の研究はかなり進んでおり、いかにして無意識のレベルで買い手に影響を与えるかという観点から書かれた本も多く見られます。
見方によっては相手を意識できないところでコントロールして経済的な利益を得ているとも考えられますが、セールスマンであれば大なり小なりやっていることでしょう。厳密に考えると、営業の時に顧客に笑顔で接していることすら相手の無意識に影響を与えているということになってしまいます。何らかの形で相手の無意識に影響を与えずにセールスをすることは避けられません。
どのように良心との折り合いをつけるかですが、現実的にはやはり相手に価値を与えていると思えるかどうかでしょう。そこで問題になるのは相手にとっての価値が何かということです。相手にとっての本当の価値は考えてもわかりません。
自分が相手にとって価値があると信じて商品を売ったとしても、相手にとって価値がない場合はありますし、たとえ価値がないと思って商品を売ったとしても相手にとって価値が生じることもあるでしょう。
価値の曖昧さが営業と詐欺の区別を不明瞭にしており、はっきりと区別できないのでタイトルに「あいだ」という言葉が用いられているのでしょう。でも実は「あいだ」すらないかもしれません。
また、自分が相手にとって価値があると思って売っている場合でも、売り手が自分自身を意識的・無意識的に騙している場合もあると思います。人は自分が思っている以上に無意識的に行動しているためです。
優秀なセールスマンは自分自身を知らないうちに騙していることもあるかもしれません。買い手にとって最も説得力があるのは、売り手が相手にとって商品の価値があると「心の底から」思っている場合です。
価値が曖昧なのは人間の心が曖昧だからです。価値とは本来曖昧なものであるからこそ金銭的尺度が必要になります。何でもお金の価値に変換するのは、存在しない「正しい」を価値を示すためではなく、定量性を用いていったんその価格に納得することによって、売買後の心理的な不安定性を少なくするという現実的な意味合いが大きいのではないかと思います。
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この記事へのコメント
今回の本は前回とは違った主旨の本で、また違った面白さがありました。ビジネスマンとして表現しにくいことを、読みやすくお書きになっていると感じました。