2008年11月06日
『世界金融危機』
金子 勝/アンドリュー・デウィット著
2008年10月7日発行 504円(税込)
ブックレットで約70ページほどの非常に薄い本ですが、書店のベストセラーランキングを見ると、本書は売れているようです。タイムリーさと薄さもあるのでしょう。
先日紹介した『波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る』もよく売れている薄い本ということで、似ているイメージを受けますが、サブプライム問題に端を発する金融危機という同じテーマを扱いながらも、両書の著者の立場は正反対といってよいほど異なります。両書とも薄い本ですぐに読み終えることができるので、読み比べるのも面白いと思います。
両著者のスタンスはいずれも反ブッシュ、反構造改革です。本書は世界の金融危機について解説しながらも、時流に乗ってもともとの著者たちの考えも主張されています。そのように考えると、本書の主張点には二つの柱があります。大きな柱と小さな柱です。
本書は今年の7月から10月にかけて雑誌に書かれたものがまとめられているので、時間の流れに沿っており記述に臨場感を感じることができますが、激変する現状からすると、本書ですら「昔」のことが書かれているように思ってしまいます。
金融危機の分析については、基礎的なデータを用いて平易にわかりやすく述べられていますが、今回の金融危機と「「構造改革」の大罪」の関係については、本書の記述からだけでははっきりしないところがあります。
日本で格差が拡大したことも当然の前提とされていますが、それについても議論が必要かも知れないと思いました。数年前は、格差拡大がよく話題になっていましたが、今から振り返ると、景気がよいときに一部の人たちがお金まわりがよくなったことが格差拡大に見えていた可能性もあります。
本書は分量的な問題もあり、そのあたりの詳しい議論をするスペースがなかったのでしょう。金融危機の解説がわかりやすくまとまっているだけに、敢えてそれ以外のことは本書に書く必要がなかったのではないかとも思ってしまいます。著者の方々が書きたくなる気持ちはわかるのですが。



