2008年11月11日
『恋愛指南―アルス・アマトリア』
オウィディウス著 沓掛 良彦訳
2008年10月22日発行 588円(税込)
岩波文庫としては三ヶ月ほど前に出版されたばかりの本ですが、原書は何と!2000年前の古代ローマ時代に書かれた本です。本書の著者は、まさか2000年後に自分の本がこのような形で紹介されるとは想像すらしなかったでしょう。そのことを思うと感慨深いものがあります。
本書が日本語に訳されたのは今回が初めてではないのですが、新本では入手しにくい状態になっていたようです。平凡社ライブラリーから『恋の技法』のタイトルで10年以上前に出版されていますが、アマゾンでは中古にプレミアムがついています。
本書は歴史的な意義や翻訳の充実ぶりを考慮すると五つ星の価値がある本ですが、その時代を生きていた人ならば明らかでも現代の人にはそのままでは分かりにくい部分が多いこと、当時の一つのスタイルとは思うのですが、内容とは直接関係のない神話伝説が挿入されていることなどの理由により、必ずしも読みやすいわけではないという点から四つ星としました。
星の数を参考に購入されて、意外に読みづらいと感じる方が出ないようにするためです。そのような点での読みづらさを除くと、本書はやはり歴史を越えて生き残ってきた本だけあり、興味深く現代でも応用が効く本です。
本書は一冊の本で三巻に分かれており、第一巻は女性と知り合って口説くまで、第二巻はいかにして女性の心を繋ぎ止めるか、そして第三巻は女性に対する恋愛指南となっています。
現代に応用が効くと書きましたが、そのまま通用するものも多くあります。以下にいくつか書いてみます。
「最初はまずありふれた言葉を発するのがよかろう。」
「なんでもいいから、君が彼女に尽くしてやるのだ。」
「まずは、君のその心に確信を抱くことだ、あらゆる女はつかまえうるものだ、との。(中略)男は愛欲を隠すのが下手だが、女はもっと秘め隠した形で愛欲を抱くものだ。」
「身を許すにせよ許さぬにせよ、言い寄られることがうれしいのだ。」
「女がよろこびに浸りきっているときこそ、その心はとらえやすい。」
「おずおずとした態度で約束したりしてはならない。約束事は女の心を惹くものだからだ。」
以上は第一巻から抜き書きした一部抜き書きしたものですが、さらにきわどいことがストレートに述べられている部分もあります。
第二巻では、以下のような興味深い記述もあります。
「私は金持ち連中のために、愛の師匠として参上したわけではない。贈り物ができるような人物には、私の技術はまったく要らないからだ。好きなときに「いいから取っておきなさい」などと言える人物は、それだけでもう才覚が身に備わっているというものだ。当方は引っ込むしかない。さような人物は、私が案出した手立てよりも、もっと女の心を惹くのだ。」
昔から女性はお金を持っている男性には弱かったようです。2000年程度の時や、ローマと日本の距離程度では女性の本質は変わらないようです。
本書には浮気がばれそうになったときの対処法まで書かれてあります。女性だけでなく、男性の本質も時空を越えて不変です。
男女関係の本質は、おそらく2000年の100〜1000倍のオーダーの時を経て形成されたものであるので、2000年程度では全くといってよいほど変化がないようであり、そのため本書は単に歴史的な過去の読み物というよりも、現代にも生かせる実用書としての意義があります。
どのような場所で知り合うか、当時存在した奴隷を男女関係にどのように絡ませるかといったような内容は、時代や場所の制約がありますが、よく読むとそれらすら現代に応用できるように読み換えることもできます。
著者は詩人としても有名であり、その作品は本書以外にも日本語で翻訳されているようです。本書にも詩人らしい文学的な表現が頻出しています。
本書は著者の運命を大きく変えた本らしく、本書は当時も評判になったらしいのですが、本書が一つの原因となってローマから永久に追放されてしまいました。それだけ本書は当時インパクトがある本だったのでしょう。よい評判と悪い評判がどちらも大きい本はパワーのある本です。
本にパワーがあるかどうかは書き手の才能を示しています。本書には著者の人生を大きく変えるパワーがありましたが、さらには本書は2000年の時に耐えて生き残り、著者を歴史的な人物にするくらいのパワーまであったようです。



