2008年11月12日
『物価迷走 ――インフレーションとは何か』
原田 泰/神田 慶司著 2008年11月10日発行 740円(税込)

物価迷走 ――インフレーションとは何か (角川oneテーマ21 A 90)
とかく最近話題になりやすい物価ですが、本書はサブタイトルにある通りインフレがテーマです。しばらく前にデフレからインフレへの転換について話題になっていましたが、現在では話題の勢いがなくなっているようです。
本書では、物価とインフレについて基本的なことから、時事的な要素も織り込んで解説されています。序章が「物価が上がるとどうなるのか」から始りますが、以後の各章のタイトルは全体の内容を簡潔に表しています。
- 原油価格はなぜ上がったのか
- 資源価格と物価の関係
- インフレーションとは何か
- なぜインフレになるのか
- 先進国のインフレ
- 世界のインフレ
- 世界史の中のインフレ
各章の末尾には短いまとめがついています。
デフレの時はデフレは悪くいわれていましたが、インフレになりそうになると今度はインフレが恐れられます。これらのことが一般的に感情に訴えるように報道されるのは、その方が注目されやすいという理由もあるのでしょう。
本書の説明によると、物価は長期的にはマネーストック(以前のマネーサプライ)によって決まるということです。中国ではインフレを「通貨膨張」と訳すらしいのですが、そのように考えると、インフレは純粋に金融政策的な現象であるようです。
金融政策によって景気をコントロールすることの限界は、今後予想されるスタグフレーションの状況を考えると分かります。金融政策は全体的な政策なので、個別に各部の調整はできません。
カラフルな絵を描くときに一色の色しか使えないような状態に似ています。濃淡を調整することはできますが、それ以上のことはできません。
おそらく金融政策は経済が長期の上昇トレンドにあるときに、その速度を調整する場合において最も威力を発揮すると思いますが、あまり国が成長しない環境では金融政策よりも、いかにして国の成長力を本質的に高めるかの方が重要度の高い問題であると思われます。
本書では、インフレを考える際に賃金についても考慮することの重要性が強調されています。今回の資源高は賃金の上昇を伴わないため、インフレは長続きしないようです。
本書に書かれているようにインフレが純粋に金融政策的なことであるのならば、インフレにするのはマネーを増やせばよいだけです。もしもそうであれば、あとはインフレをどのように考えるか次第です。
マイルドなインフレが経済にとってよいと考えるのであれば、少しずつマネーを持続的に増やし続ければよいということになります。
お金は経済の血液といわれます。血液の役割が流れることであるように、お金も世の中をめぐっている方がよいのかもしれません。インフレは物価が持続的に上昇することですが、裏返すとお金の価値が持続的に下落することです。
インフレ傾向にあると、お金は長く持っていると価値が少しずつ落ちます。時間が経つと生ものが傷むようなものです。時間が経つと傷むのであれば、なるべく手元にお金を置こうとしないはずです。そう考えると、やはりインフレの方が経済が活性化するのではないでしょうか。
ただし、流れているお金は有効に利用されるという条件付きです。お金がいくらあっても有効に活用する場がないと、まさに宝の持ち腐れです。そのあたりにも金融政策の限界があるように思います。いくらインクが多量にあっても、よい素材がないとよい画は描けません。インクの濃度と素材の両方が重要です。


