2008年12月01日
『世界と日本経済30のデタラメ』
東谷 暁著 2008年11月30日発行 798円(税込)
著者は今までにも経済的な諸問題について、正しいと一般的に考えられている概念について見直しを迫るような本を何冊か書かれています。タイトルから想像できるように、本書もそのコンセプトに沿った内容です。
全部で200ページ程度の新書本ですが、30のテーマについて書かれており、一つひとつの記事はコンパクトに読み切ることもでき、読みやすい本でした。本書の内容が分かりやすいように、30のテーマからいくつか以下にピックアップしてみます。
- アメリカの金融資本主義は崩壊する
- 日本は「大きな政府」だから経済が停滞している
- 公務員が多いせいで日本はダメになった
- もっとIT化すれば日本の労働生産性が上がる
これらは著者が「デタラメ」として挙げられているもので、著者の主張は以上と反対のことにあります。全部で30の「デタラメ」が挙げられていますが、多くは数年前に小泉政権の構造改革のテーマとなった、規制緩和、民営化、株主資本主義などに関連するものです。
構造改革のようにあるテーマがしばらく大きく取り上げられた後は、その反動として反対の主張が出やすくなります。小泉政権の構造改革はアメリカ色が強い政策であったので、アメリカが世界的に問題化している現在は、本書のに書かれているような話が受け入れられやすい時期です。
本書に書かれていることは、うなずかされることも少なからずあります。かなり辛口の語り口なので、立場によっては本書の内容は読みづらいと感じる方もいるかもしれません。
人間の意識はスポットライトのようなもので、暗闇に覆われている世界の一部にしか光を当てることができません。人間の認識を深めるとは、そのスポットライトの光を強くしたり、幅を広くしたりするといったことです。
意識をスポットライトに照らされた領域とすると、光の当たっていない意識できていない領域は広大です。
どのような領域に意識のスポットライトが当たるかというと、自分の利害と関係のある所や、多くの人のスポットライトが当たっている所です。意識していることについては意識的になれますが、何を意識するかについては無意識に決まっていることがほとんどです。
よって自分で意識していると思っていることでも、実は無意識に大きな影響を受けており、そのように考えると、人間が自分の認識をコントロールできる部分はほんのわずかと言えるでしょう。
経済学的な考えについても、自分の利益に関係が深そうな所にスポットライトの光が当たり、多くの人のスポットライトによって照らされている所に光が当たります。
人間は光が当たっているところを過度に正しいと考えてしまいます。実際に正しいこともあるのですが、正しいということ自体が曖昧であり、たとえ正しい場合でも、スポットライトが当たっていない多くの領域が視野に入っていないことがほとんどです。
本書に書かれていることは、しばらく前まで「正しい」と方々でいわれれていたことを覆す内容になっています。これらは本書に書かれているような内容に世間のスポットライトが当たるのかもしれません。
本書を読むと、人間の認識、少なくとも集団の認識については、スポットライト的な認識しかできないのではないかと思ってしまいます。経済政策は利害が絡み多くの人に関係するからです。
そのあたりの認知の歪みをいかにして望ましい形にしていくかも、今後の重要なテーマになるのかもしれません。



