2008年12月19日
『この世でいちばん大事な「カネ」の話』
西原 理恵子著 2008年12月10日発行 1365円(税込)
この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)
著者:西原理恵子
販売元:理論社
発売日:2008-12-11
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著者はイラストに独特の味わいのある漫画家の方です。ビジネス書との関係で書くと、著者は勝間和代さんの本で対談されていました。自立した女性のイメージが重なっているのでしょう。
本書は漫画ではなく、御自身のお金をテーマに半生が文章で綴られていますが、イラスト要所要所で用いられています。著者のイラストは以下の著者のページで見ることができます。
著者はお金についてさまざま苦労や経験をされたようですが、本書ではその体験が人生論風に書かれています。
本書は理論社の「よりみちパン!セ」というシリーズの一冊です。このブログで紹介するのは初めてですが、このシリーズは中学生から読めるように書かれているとのことで、ほとんどの漢字にふりがながふってあります。
本書の章のタイトルはそれぞれ長いのですが、以下の通りです。
- どん底でも息をし、どん底でも眠っていた。「カネ」がないって、つまりはそういうことだった。
- 自分で「カネ」を稼ぐということは、自由を手に入れるということだった。
- ギャンブル、為替、そして借金。「カネ」を失うことで見えてくるもの。
- 自分探しの迷路は、「カネ」という視点を持てば、ぶっちぎれる。
- 外に出て行くこと。「カネ」の向こう側へ行こうとすること。
やや長めの章のタイトルから、内容や雰囲気がよく伝わってくると思います。
本書では、いかに著者が幼少時から現在に至るまで、生活、親子関係、仕事、友人関係、ギャンブル、借金などによってお金を獲得したりコントロールしたりするための苦労をされたかが書かれています。
著者の自立は多くの部分がお金による経済的自立と重なっていると書かれていますが、自分自身をコントロールする「自律」についても、お金のコントロールと関係しているように思われます。
私見ですが、お金については以下の三つの理解があると思います。
- カラダでの理解
- アタマでの理解
- ココロでの理解
「カラダでの理解」とは、衣食住や労働など日常生活における身体感覚と直接つながった理解です。お金がないとご飯が食べられなくてつらいとか、額に汗して働いて得たお金は大事であるなどといったことです。この理解は、ふつうに働いて生活していれば「カラダ」で理解することができます。
「アタマでの理解」とは、金融や投資などについての一般的な理解です。ある程度の数理的な知識を必要とします。たとえば、消費者金融における金利の高さなどを理解したり、株は分散投資をした方がリスクが低くなるなどといった知識です。これは、ある程度意識的に理解しようとしなければ、知らないうちに損をしているといったことになりがちです。
「ココロでの理解」とは、行動経済学や、トレーディング、人間の心理を利用したマーケティングなどについての理解です。これらの知識は、かなり意識的に情報を吸収しないと存在すらわかりませんし、損をしたとしてもその理由などがわからないこともあります。本当の意味で理解するのは容易ではなく、これらを理解して応用できる方からすると、大きな利益の源泉になるのかもしれません。
これら三つのお金についての理解の視点から本書を読み直すと、本書の内容は、読みどころである著者の体験の多くが「カラダでの理解」に多く関わっており、「アタマでの理解」が少々、「ココロでの理解」がある程度書かれていることがわかります。
大人はあまり子どもにお金の話をしないと思います。大人自身が正面からお金と向き合っていないため、整理された形で話ができないということもあり、そのためお金について理解していない状態が引き継がれます。
世の中の多くの問題やトラブルがお金に関係していることが多いことを考えると、この状態はあまり望ましい状態ではありません。
お金について語ることが「下品」であると言われることがあるのは、お金は人間の欲望に関係しており、欲望が「下品」なものであると考えられているからかもしれません。誰も自分自身の「下品」なところは話題にしたくありません。
お金について考えないということは、人間の欲望について考えないということでもあります。欲望を超越した状態で考えないということであればよいと思いますが、たんに自分の欲望と向き合いたくないので考えないということであれば、かえって欲望に振り回されてしまいます。
本書を足掛かりとして、少しずつ読みながらお金について話し合っていくと、解説する人にもよると思いますが、かなり深いレベルまでお金について考えることができるのではないでしょうか。
お金をコントロールすることは、自分の欲望をコントロールすることにもつながります。本書はお金について考えるきっかけになる本として、若い人に役立つ本であると思います。