2008年12月22日
『アメリカ後の世界』
ファリード・ザカリア著 楡井 浩一訳
2008年12月31日発行 1785円(税込)
アメリカ後の世界
著者:ファリード・ザカリア
販売元:徳間書店
発売日:2008-12-17
クチコミを見る
本書は原著も今年出版されていますが、アメリカでもベストセラーになった本のようです。本書のようなアメリカにとって自己洞察的な内容の本がベストセラーになるくらいなので、まだまだアメリカは自己治癒の力はあるのかもしれません。
著者はインドで生まれ育った方ですが、18歳で渡米し、その後米国のジャーナリズムの世界に生きている方です。現在は《ニューズウイーク》国際版の編集長をされています。世界の国々の知識、滞在経験とも豊富な方のようです。
本書の各章のタイトルは以下の通りです。
- 「アメリカ以外のすべての国」の台頭
- 地球規模の権力シフトが始まった
- 「非西洋」と「西洋」が混じり合う新しい世界
- 中国は”非対称的な超大国”の道をゆく
- 民主主義という宿命を背負うインド
- アメリカはこのまま没落するのか
- アメリカは自らをグローバル化できるか
本書は非常にリーゾナブルな本です。本書で現在のアメリカに欠けていると考えられている、成熟した「大人」の知恵があります。
本書は歴史的、国際政治的な視点が強い本です。本書のテーマはタイトルの通りもちろんアメリカですが、現在台頭し、これから勢力と強めてくるであろう中国とインドについてもかなりのページを割いて書かれています。
本書のようなこれからの世界情勢の流れを予想している最近の本では、ほとんどの本が中国について記述されていますが、本書ではインドについてもかなりのページを割かれています。
インドももちろん大国なのですが、本書での記述が充実しているのは、著者がインド人ということもあるのでしょう。また、大国の興亡について、アメリカとの比較で、大英帝国時代のイギリスについての分析が充実しています。被支配期間が長かったこともあり、インドにとって大英帝国は無視できない国なのでしょう。
著者は現在のアメリカはさまざまな問題はあるとしつつも、そして今後は世界全体の成長によりアメリカの相対的な地位は低くなるとしつつも、まだまだアメリカは力に満ちた国であると主張されています。そのことは、本書の最後の部分によく表れています。
「この難題だらけの新時代でアメリカが繁栄を謳歌するためには、そして”その他の台頭”の中でアメリカが成功をつかみ取るためには、たったひとつの条件を満たすだけでいい。その条件とは、一世代前に十八歳の無骨な学生が感じたのと同じ魅力と刺激を、これからアメリカの地を踏む若き留学生たちにも提供し続けることなのである。」
著者はアメリカを通じて成功されたので、まさにアメリカは「夢の国」であり、このようなアメリカ観は著者のみならず、アメリカで成功した人は持っている感覚かもしれません。そのような意味においては、アメリカでの成功者の意見には「正当な」バイアスがあると思います。
本書には日本についての記述もところどころにあり、著者のように広い国際的な視野を持った方から日本がどのように見られているかも興味深いところです。たとえば、以下のような記述があります。
「1980年代半ばには、日本が超大国として技術と経済の分野に君臨する、という未来を多くの専門家が信じていた。」
現在の日本は、依然として世界第2位の経済大国ですが、残念ながら、往年の勢いについては見る影もありません。
本書はアメリカのあるべき姿について書かれていますが、望ましい国の方針については日本としても参考になるところがあります。また、アメリカが国内で抱えている問題は、現在の日本とも共通している点もあるようです。
本書は経済的な記述については、やや寂しい点があり、どちらかというと歴史や国際政治の観点からの解説がほとんどです。現在の金融危機についてもほとんど述べられていません。しかしながら、以下のような記述は参考になります。
「ウルフによれば、昔の経済学者はふたつの基本概念、”資本”と”労働”に重きを置いていた。しかし現在、資本と労働は商品として扱われ、誰もがたやすく入手できるようになっている。今日では、経済の浮沈を左右するのは、”アイデア”と”エネルギー”であり、国家はこのアイデアとエネルギー(石油、天然ガス、石炭など)の供給源とならなければならない。」
本書はあまり斬新なことは書かれていませんが、アメリカという国を通じて世界を著者の視点で眺めることにより、国際社会における国としてのあり方や、歴史的な視点から連続的に現在の世界情勢を理解することができる良書であると思います。
トラックバックURL
この記事へのコメント
いつもブログ参考にさせてもらってます。良本の紹介ありがとうございます。
この度、新年に向けてというか、心機一転ブログのタイトルを変更してみました。
大っ変お手数で申し訳ないのですが、リンク名を「メタノート」に変更していただけると幸です。
今後ともよろしくお願い致します。
こちらこそ御紹介ありがとうございます。
ブログのタイトル変更の件、了解しました。早速変更しておきます。
今後ともよろしくお願いします。


