2008年12月31日
今年の株式市場についての雑感
今年も今日で最後なので、本を紹介する以外に何か書こうと考えましたが、今年はサブプライム問題に端を発する金融危機の影響によりマーケットが大荒れだったので、市場から実感を通じて学んだことを書いておこうと思います。
毎年世相をもっともよく反映する漢字一字を選んでいる日本漢字能力検定協会によると、今年の漢字は「変」だそうです。ちなみに昨年は「偽」でした。いずれにしろ、あまりいいイメージの文字ではありません。
もしも今年の市場を漢字一字で表すとすると、「乱」になりそうです。日本の株式市場は42%の下落率だそうですが、世界的に見るとまだ軽症だったようです。新興国は三分の一程度になっている国も数多くあります。
中国では94%の個人投資家が損失を被っているようですが、日本でもややその数字が少ない程度で、ほとんどの方が損失を被っているのではないでしょうか。
「100年に一度の金融危機」という言葉も、年の終わり頃にはすっかり定着しましたが、これから長期的に投資を続けるのであれば、今年マーケットに参加していた方は貴重な経験をしたのかもしれません。
やはり知識として知っているのと、実際に自分のお金を投資して市場に参加しているのとでは感覚が違いますし、その違いが株式投資の難しさを形成しています。
前置きが長くなりましたが、以下に今年の市場で感じたことを書きます。雑感なので徒然なるままに書いています。
- 株価は想定以上に大きく動く
昨年末の日経平均は15000円前後でしたが、今年のうちに2003年度につけた7000円台の最安値をさらに上回る下落があるとは、ほとんどの人が想定していなかったでしょう。エコノミストの方でもそれほどの下落を予測した人がいた記憶はありません。ほとんどの人の想定外に株価が下落しました。日常的に肌で感じる経済の動きは、総資産の動きの感覚ですが、株式はエクイティの動きなのでレバレッジがかかっているため、日常的な経済に対する皮膚感覚より大きく動きます。
- 市場はパニックになることがある
ある程度の下落が生じてそれが恐怖と重なると、下落が下落を呼ぶ展開になり、下値のメドが立たなくなります。そしてそれがさらなる下落スパイラルと正のフィードバックを誘発します。そうなると、ファンダメンタルとは関係なく本来の価値と乖離した価格が付きます。市場は「だいたい」効率的ですが、パニックになると効率性が失われます。株を買うのは、市場がパニックになっているときがよいというのは本当だと思います。少なくとも、盛り上がっているときに買うよりはずっと長期的なリターンはよくなるでしょう。
- 市場の動きを前もって予測している人もいないわけではない
本ブログで松藤民輔氏の本を数多く紹介しましたが、アメリカの「不動産バブルの崩壊」とそれに伴う株式市場の崩壊については当たっていました。氏の予測がすべて当たっているわけではありませんが、その予測に賭けてプットを買っていれば、この一年は資産を数十倍に増やすチャンスでした。ただし、誰の予測が正しいかは事前にわからないのでこれらのことは結果論ですが、極端な予測であると思われていたにもかかわらず実際は正しかった予測をしている人はいないわけではありません。これはパフォーマンスのよいファンドマネージャーがいるという議論と同じかもしれません。
- 金融の専門家も事態を把握しているわけではない
金融の専門家は素人よりは金融の知識はありますが、皆が問題の本質を理解しているわけではないようです。だからこそ今回のようなパニックになっているのでしょう。専門家の知識にも限界があります。
- キャッシュはキングである
今回の金融危機では、とくに流動性の重要性がわかります。サブプライム証券が問題だったのも、流動性が枯渇していたことも大きく関係しています。流動性の低下が金融資産の価値を下げますが、キャッシュの一番の本質は流動性なので、流動性があるぶん相対的にキャッシュの価値が大きくなります。ただし、現在は皆がキャッシュを欲しがりますが、皆が欲しがるものは持っていない方がよいというサインかもしれません。株価が高いときは皆が株を持ちたがるので株をキャッシュにするべきですし、株価が安いときは皆がキャッシュを持ちたがるのでキャッシュを株にするべきかもしれません。
- 政治は重要である
なぜなら、政治が経済の仕組みを作るからです。政治の役割は利害の調節ですが、もっとも大きな役割は経済効率を高めるシステムを創ること、そしてそれを維持することです。一定の大きさのパイをいかに配分するかも重要ですが、パイをどのようにしたら大きくできるかを考えるのはより重要です。パイが年ごとに大きくなっていれば、配分の問題の解決は容易です。誰に政治をしてもらうかは重要ですが、それは結局国民がどのような政治家を選ぶかということです。政治家が悪いと言うのは、自分たちが政治家をうまく選べていないということになります。政治家を選ぶためには自分自身が経済のことをよく理解する必要があります。マスコミと同じように、政治家は国民が望むように行動しています。
- 世界の市場はグローバル化している
デカップリング論が成り立っていないのは、市場がグローバル化しているからです。短期的に暴落が生じる場合は、とくに連動する傾向がありますが、実はもう少し中長期で見ると、デカップリング論は成立する可能性もあると思います。今後は、アメリカが停滞して中国が成長するというシナリオもあるかもしれません。
- フリーランチはない
これも結果論ですが、住宅の値上がりを当てにして消費を続けるアメリカ経済の状態はやはり異常でした。とくに生産性が上がったわけでもないのに、住宅の値上がりを当てにして消費を続けていれば、そのツケがまわってくるのは「フリーランチはない」ことからわかります。お金が余り、投資するところがなければバブルが生じます。魅力的な女性が周りにいてセックスしなければ、男性の恋愛感情が自然に高まることと似ています。依然として世界にお金は余っているので、有効な投資対象がなければまたバブルが生じることでしょう。そして、またバブルは崩壊するでしょう。バブルのたびごとに富の分布が変化します。今回の金融危機で資産を増やした人もいることでしょうし、そのような人はすでに次の機会を狙っていることでしょう。
以上のようなことはよく投資や経済の本に書かれているので、知識としてはよく知っていたつもりでしたが、今年はその知識を体感させられた年でした。長い目で見ると、よい経験になったと思います。