2009年01月06日
『草食系男子の恋愛学』
森岡 正博著 2008年7月18日発行 1050円(税込)
草食系男子の恋愛学
著者:森岡正博
販売元:メディアファクトリー
発売日:2008-07-16
おすすめ度:
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出版されてから半年くらい経っている本です。本書は以下のsmoothさんのところの記事で数ヶ月前に知って購入していたのですが、紹介していなかった本です。本書の実用的な解説は以下の記事が充実しています。
マインドマップ的読書感想文:【モテ】「草食系男子の恋愛学」森岡正博
昨日いただいたdonaldさんからのコメントをきっかけに、紹介させていただくことにしました。
本書の主旨は著者による前書きによく表現されています。
「この本は、不特定多数の女性からモテモテになる方法を教えるものではない。また、「女を落とすテクニック」を教えるものでもない。この本は、あなたの好きな一人の女性から振り向いてもらえるようになるためのいくつかのヒントを、あなたに伝えるためのものである。」
本書のキーワードは、誠意、誠実、優しさ、繊細さ、気配り、共感、傾聴、受容、癒し等々です。一人の女性に誠実に接して深い愛を築くというスタンスが一貫しており、恋愛の醍醐味はそこにあるとされています。
本書の内容は女性のチェックも入っているそうであり、本書を女性に読んでもらって感想を尋ねると、深い同意が得られるのではないかと思います。女性が恋愛において男性に求めるものが著者の体験などを通じて、繊細な筆致で書かれているように思います。
本書を読んで感じたのは、非常に女性性が強い本であるということです。共感することや理解し合うことは、一般的に女性が強く求めるものです。
本書は女性と共感するために、男性に女性的になることを提案しているように思います。おそらく、本書の読者となる方は、自身の男性としての存在に自信を持っていない人でしょう。
そのような男性は、多くの場合コンプレックスから自分自身の男性性を抑圧していることが多いと思います。そのため、コンプレックスを克服して男性性の抑圧を解放することなく、女性との恋愛関係を築く方法を提案している本書は受け入れられやすいことでしょう。
そのような男性も、本書に書かれている方法を実践することにより、女性と誠意、理解、共感などを軸にした恋愛関係を築くこともできるかもしれません。そしてその関係は心地よいかもしれません。
しかしながら、その関係は、男性性を抑えた女性性を中心とした関係です。男女がもともと対等な存在であるのならば、本書で提案されている関係は女性の方に偏っている関係です。女性への偏りがあるのは、男性側に自分の男性性についてのコンプレックスがあるからでしょう。
弱みがあると相手に歩み寄ってしまいます。また、女性性が強い関係で男性性を抑えたままの状態は、自信のない男性性を解放する場合に生じる否定的な思いを感じる必要がないので、そのような男性にとって受け入れられやすい点もあります。
おそらく、本当に対等な男女関係は、男性が自分自身の男性性を抑圧することなく女性と対等な関係が築けている状態です。そのように考えると、男女が対等な関係を築くのは容易なことではありません。
恋愛はもともとエゴイスティックな関係なので、その関係を通じて本当の意味で理解し合うためには、お互いが自分自身のエゴを認識し、さらにもともと理解しがたい異性のエゴについても、それぞれ血のにじむような思いをして取り組む必要があります。
本書で描かれている恋愛の世界は繊細で美しい世界ですが、その世界が実現されるためには、男女がそれぞれのエゴをある程度克服している必要があります。
恋愛には、優しさや癒しと同時に男女それぞれのエゴが存在します。男性であれば、付き合っている彼女より魅力的な女性から誘われると浮気心が動きますし、女性の方も、付き合っている彼よりイケメンで、誠実で、優しくて、面白くて、お金があって、話が盛り上がる男性に言い寄られると乗り換えたくなる気持ちが生じます。
女性は美しくて、可愛くて、セクシーな存在ですが、同時にしたたかで、図太くて、計算高い存在でもあります。女性を受け入れるとは、自分に対して否定的な側面も含めて受け入れることであり、そのことを考えると、自分自身も完全な存在である必要はないことがわかります。
本当の意味での、理解、共感、癒しは容易なことではなく、男女間で果たしてそのことが一般的に可能なのかどうかという疑問もあります。また、男女が付き合う場合、理解などしていなくても関係が続いていることはありますし、時代によっては理解しないことが普通であったかもしれません。
男性は女性からすると力強くて、頼りになる存在ですが、浮気っぽく、粗野な存在でもあります。相手に自分を受け入れてもらうのであれば、まずは自分自身が自分の否定的な側面を受け入れる必要があります。男性性の否定的な側面を自分でも受け入れないと、女性も受け入れてくれないでしょう。
本書に書かれている方法を実践して女性と恋愛できたとしても、男性はその後どこかの時点で自分自身の男性性を抑圧していたことに気付くかもしれません。そのような場合に、その抑圧していた男性性を解放するのを女性が受け入れてくれるかどうかは一つの山場です。
そこで、女性は「裏切られた」と感じるかもしれませんが、そのように感じて女性が男性から離れてしまうのであれば、それは女性が男性を「愛」していたのではなく、男性性を抑圧して女性化している男性を、自分が心地よく理解し共感できる範囲内で「愛」していただけです。
女性と本当の愛の関係を築くつもりであれば、男性性を抑圧しないほうがよいと思います。抑圧したまま女性と恋愛をして、その後修羅場を迎えるのであれば、最初から男性性を抑圧しないスタンスで女性と付き合い、自分自身の価値を高めて、男性性も含めて自分を受け入れてくれる女性と付き合う方がよいでしょう。
男性が女性と関係を築く際に、女性的なコミュニケーション方法で親しくなるのはよい手段です。本書にはそのための方法や心構えが非常にわかりやすく説明されており、実践的にも役立つ本であるとは思いますが、女性性を強調するあまり男性性を抑圧しすぎないことに対する注意が必要です。
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この記事へのコメント
神田昌典さんの著書、『人生の旋律』だったと
思うのですが、、、そこで初めて男性性、女性性なるものを知りました。
私は心理学には疎いため、誤って記憶しているかも知れませんが、男性性がつよく出る時期、女性性がつよく出る時期というものがあるのですね。(すいません。本当に疎くて)
その本にはどちらかを抑圧すると逆にそちらに
意識が向いてしまい、バランスをとるような出来事が現実に起きてくるというようなことが記されていたように思います。
(飛躍しすぎですかね・・・(汗))
また個人的に勉強してみたいと思います。
ありがとうございます!
この著作の表紙をみましてなぜか以前読んだ、
喪男の哲学史 (現代新書ピース)を思い出しました。
きっとその当時、恋愛ってなんぞや!?と考えていて手に取ったからだと思うのですが。
はじめまして。hiroと申します。
本書、『女性性』というスタンスで読むと深みが読み取れそうですね。かといって、男性性を抑えすぎずが大事なのですね。
気になっていたので大変参考になりました。
神田昌典さん流に本書の内容を展開させるとすると、男性性を抑圧した状態で女性と蜜月になっていると、なぜか女性に誘われて浮気の機会が不思議とできてしまうということになるのかもしれません。
バランスが取れない部分のバランスをとるべく周囲の環境が変化するということですが、そのようなことがなかったとしても、男性は意識できない不全感が自分のこころの中に漂っているのを感じるかもしれません。
『喪男の哲学史』面白そうですね。目を通してみたいと思います。情報ありがとうございました。
>hiroさん
はじめまして、コメントいただきありがとうございます。
男性性と女性性は恋愛のメインテーマですね。本書は、そのテーマについて深く考えさせられる本です。
hiroさんのブログは、たまに拝見させてもらっていますが、hiroさんは「平凡」ではないと思っています。
記事の分析は小生にはまだ消化不良の部分がありますが、とりあえずアバウトかつベタな感想を述べると・・・「いい人」には「大恋愛」は無理なのかな。(でも「いい人」は「良い夫」にはなれるだろう)
男が女性に寄り添う努力をするだけではなく、お互いの違いや否定的な面も含めて丸ごと受け入れる対等の男女関係が、恋愛と呼ぶのに相応しい「濃い」関係だとしたら、どうも恋愛というのは向き不向きがあるように思ったりもします。
・・・とりとめのないコメントでした。また出直してきます。有り難うございました。
本書は記事にしないままになっていた本なので、「リクエスト」がよいきっかけになりました。
お書きの通り、本書に書かれている恋愛は初心者向きのようでありながら、実際には容易でない点があり向き不向きがあると思います。
個人的な趣味でどうも男女関係の記事には力が入ってしまうのですが、こちらの方で勝手に書いているので、お気軽にお考えいただければと思います。
結局のところ、恋愛で本当の愛の関係を築くのは不可能ではないにしても難しいと思っています。恋愛が終わったところに本当の愛に向けての関係が始まるように思います。
男性性が存在するのが本当の自分であるとすると、男性性を抑圧したままの状態でないと女性が受け入れてくれないのであれば、それは本当の自分を受け入れてくれてないということになり、お書きの通り、女性と本当の愛の関係を築くのは難しいです。
遅くなりましたが、ご紹介ありがとうございます。
さすがご自身の専門的な視点を踏まえた、素晴らしい書評だと思います。
この考え方でいくと「モテる技術」みたいな、一般的な「モテ本」が「男性性を解放した本」ということになるんですかね?
もともと「草食系」の男性にとっては、あっちの方が最初のハードルは高いものの、いったん越えれば抑圧されてない分、意外となんとかなるのかも、と思ってみたり。
コメントいただき、ありがとうございます。
記事を御評価いただきありがとうございます。
お書きの通り、smoothさんおすすめの「モテる技術」は男性性が強く表現されている本ですね。
草食系の男性には、女性性に偏ったバランスを取りなおすためにも、むしろ「モテる技術」のような本が必要ではないかと思います。
恋愛や女性を美化しがちな草食系の男性は、数多くの生身の女性と接することによって、恋愛の弱肉強食的な部分や女性のエゴイスティックな部分を現場で痛感して、バランスを取る必要があるかもしれません。