2009年01月24日
『大転換の時代』
原田 武夫著 2009年1月30日発行 1500円(税込)
大転換の時代
著者:原田 武夫
販売元:ブックマン社
発売日:2009-01-22
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著者は外交官だった方ですが、独立してシンクタンクを設立された方です。今までの日本では見られなかった独自のポジションを築いておられるように思います。
本書は、世界情勢を政治、経済、金融、地政学などのさまざまな点から読み解きながら、これからの日本が向かうべき方向を提案されています。あとがきによると、本書には以下の四つの視点があるようです。
- 外交官としての国際政治の最前線で働いた経験を踏まえた視点
- 中小企業の一経営者としての視点
- マーケットとそれを取り巻く国内外情勢の分析を行う金融インテリジェンスという視点
- 米国ではなく、英国でもなく、ドイツで学び、しかも1919年から1933年まで続いたヴァイマール共和制における政治哲学、憲法の専門家でもあるという視点
1、3、4の視点は今までの著作と同様ですが、本書では2の「中小企業の一経営者としての視点」もある程度突っ込んで表現されており、新鮮な印象を受けました。
日本とシンクタンクというと、今まではいずれかのエスタブリッシュメント的な組織とのつながりがあり、その研究や表現は自然と制限される傾向にありますが、著者はそのような組織からはなるべくフリーであるように活動されているようです。
そのため著者の予測はかなり自由度が高く、予測というより一つのストーリーが作り上げられているような印象を受けます。ストーリーというとフィクション的な響きがありますが、未来予測は本来不確定なものなので、シンクタンクにおける予測は、いかにして将来の日本にとって有用なストーリーを構成するかということになるのかもしれません。
著者のポジションは「辺縁的」ですが、世の中を進歩させるのは多くの場合「辺縁的」な存在なので、著者のような方が存在できるようになった日本は、昔に比べるとよい方向に向かっている点もあるのかもしれません。今後はさらに多様性が増えるとよいと思います。
本書を読むと、著者の予測は著者の人生と密接に関係していることがわかります。そのような予測は、客観性がなくなってしまうような感じがしますが、現実における混沌とした世界の予測をあまりにもスムーズに客観的に予測しようとすると、予測から魂が抜けてしまい、逆に現実から遠ざかってしまいます。あまりにも客観的できれいな予測は、実用的ではありません。
著者の予測では、今後の世界はデフレ的な傾向が続くので、キャッシュの多い日本は相対的な強さが増大するためチャンスであるとされていますが、それだけに十分に気を付けて戦略的になる必要があると主張されています。
全方位的な戦略性は日本に欠けている部分なので、今後の世界が本書に書かれているように展開するかどうかはともかく、本書のような戦略的思考はこれからの日本に取ってとくに必要なことです。
たとえ本書に書かれている予測にズレが生じたとしても、著者は常に戦略的な観点から修正を続けられることでしょう。本書の内容は興味深いのですが、それよりも世界に対する際に著者がどのようなスタンスを取られているかを本書から吸収するのがよいと思います。


