2009年01月26日
『グローバル恐慌―金融暴走時代の果てに』
浜 矩子著 2009年1月20日発行 735円(税込)
グローバル恐慌―金融暴走時代の果てに (岩波新書 新赤版 (1168))
著者:浜 矩子
販売元:岩波書店
発売日:2009-01
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まだアマゾンでの書影がありませんが、岩波新書の新刊です。著者は大学で経済の教官をされている方です。本書は派手さはないのですが、岩波新書らしくスタンダードな感じでまとめられています。
本書は現在の金融危機と景気後退のただ中にある世界経済の現況、原因、そして今後のあり方などについて満遍なく述べられています。シンプルな各章のタイトルを見ると、そのことがよくわかります。
- 何がどうしてこうなった
- なぜ我々はここにいるのか
- 地球大の集中治療室
- 恐慌を考える
- そして、今を考える
金融について書かれている本らしからぬシンプルな章のタイトルですが、本文ではある程度の用語は出てきます。
今回の金融危機が生じた仕組みや過去の金融の歴史などについては類書にも書かれているので、本書のような本を読むときは、著者が多くの人の見方が一致しているわけではない現況をどのように捉えているか、そして今後の状況がどのように展開すると予想されているかなどが読みどころです。
現在の「恐慌」については、著者は異常な状態であった経済が正常化するための痛みを伴う途中過程であると考えておられるようです。そのため、統制しすぎると創造性が失われてしまうためよくないとのことです。
今後は世界経済が保護主義化することを心配されているようです。保護主義については、通商戦争と通貨戦争に分けられていますが、各国が自国の利益を優先するという点では本質的に両者は同じことです。
先日さっそくオバマ政権が中国の「為替操作」について言及し、中国が反論しましたが、世界的に経済全体が縮小すると、各国に余裕がなくなって自国の利益を優先する動きが出てくるのは必然的な流れなのかもしれません。
昨年秋のG20でわざわざ保護主義の排除について謳ったのは、保護主義が自然な流れだからでしょう。各国の当然の国益追求の流れに、どこまで人為的なコントロールが可能かについては、今後注目したいところです。
最後に書かれているのは、資本が無国籍化しているため、突出して強い経済力が一つの国に集中することは不自然であるということです。基軸通貨がない時代の通貨体制は、その軸が「地域通貨」になるのではないかと考えておられるようです。
最後に書かれているこの考えが、本書では最も浮かび上がっている主張です。ここの部分はわずかに記述されているのみであり、その論拠や具体像について著者の考えを詳しく知りたいところですが、まだ著者の中でも予感のような形でしか存在していないのかもしれません。
今回に限らず、金融や市場についての諸問題は人間の本性に原因があり根深い問題なので、いくら外側のシステムを変えても、時間が経てば同じようなことが生じると思います。
金融市場は人間の心が反映されますが、人間の心が不安定で揺れ動いている限り、市場はその不安定性を排除することはできないでしょう。そして、市場は人間の心の不安定性があるからこそ存在している面があるからです。すべての人があらゆるものの価値を正確に把握できれば、市場で価格を決める必要なくなります。
本当かどうかはともかく、今回の金融危機も「100年に一度の」と言われています。もしそれが正しいとしても、1000年後から振り返ると10回程度は生じているはずです。
ただし、1000年後も現在のような貨幣制度を軸にした経済システムが残っているかどうかは分かりません。1000年後から考えると、1000年前、つまり我々の生きている現在は、合理的な判断ができない人々が、自らの責任で日々判断をしないといけなかった時代だったということになるかもしれません。


