2009年03月14日
『なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学』
池尾 和人/池田 信夫著 2009年3月2日発行 1785円（税込）
なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学
著者：池尾 和人/池田 信夫
販売元：日経BP社
発売日：2009-02-19
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経済学者のお二人による講義形式の対談本です。著者のお一人は著名なブロガーですが、本書ではどちらかというと聞き役側です。本書は想像していたより読みやすい本でした。
巻末には用語解説、今回の金融危機の年表、読書案内などがあり親切な作りになっていると思います。本書は全部で７講ありますが、その内容は以下の通りです。
- アメリカの金融危機の深化と拡大
- 世界的不均衡の拡大：危機の来し方��
- 金融技術革新の展開：危機の来し方��
- 金融危機の発言メカニズム
- 金融危機と経済政策
- 危機後の金融と経済の行く末
- 日本の経験とその教訓
著者のお二人は比較的考え方が近いようなので、対談もスムーズであり、そのような意味においては安心して読むことができます。対談を通じて、お互いの考えを確認し合うような印象を受けました。
もしもこの対談が考え方が相容れない二人によるものであれば、それはそれで興味深いかもしれません。たとえば、本書の著者の一人である池田信夫氏とリチャード・クー氏の組み合わせです。
もしも経済学が純粋な論理でできているのであれば、考え方が反対でも議論を通じて新しい結論が出るはずです。
だいたいにおいて物事が対立している場合は、両方にそれぞれに正しい点があり、実際的な正解はその中間にあることが多いように思います。たとえば、長期的な構造改革を選択するか短期的な景気刺激策を選択するかといった問題は、両方必要といったようにです。
ほとんどの場合、ある企業の株価についても、高いと考える人、安いと考える人ともに存在します。もしも一方に偏っていれば、株価は均衡する価格まで変動します。
現実世界も同じようなものではないかと思います。ある事柄が偏った状態にあると、ある程度の時間をかけて均衡点に収斂します。株価よりは時間がかかりますが、本質的には同じことです。
日本で構造改革がなかなか進まないのは、構造改革が進んだらよいと思っている人と進まない方がよいと思っている人が、それなりの状態で均衡しているからでしょう。おそらく現在は構造改革が進まない方がよいと考えている人の力の方が強いはずです。現実からはそう考えざるを得ません。
株価は市場のすべてを織り込みますが、現在の日本の状況もすべてを織り込んでいるはずです。すべてというのは、理性的な面、非理性的な面の両方あります。株価は理性を中心として価格が形成されいますが、日本の現状は非理性的な面を中心として現在のような状況になっています。
本書のような本は、日本になるべく理性的な面を増やしていこうとする目的があると思います。多くの人が理性的に議論できるようになると、均衡する地点が異なってくることでしょう。
日本において重要なのは本書に書かれていることをそのまま受け入れることではなく、本書で議論されているようなことを皆で考えることができるかどうかです。本書の重要性は、内容よりもむしろそのスタイルにあるのかもしれません。
