2009年04月22日
『新しい資本主義』
原 丈人著 2009年5月1日発行 735円(税込)
新しい資本主義 (PHP新書)
著者:原 丈人
販売元:PHP研究所
発売日:2009-04-16
おすすめ度:![]()
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著者はベンチャーキャピタリストをされていた方ですが、それよりも社会事業家と呼ぶほうがふさわしいかもしれません。本書を読むとよく分かりますが、国際的に幅広い活動をされている方です。
著者の本は、2年近く前に『21世紀の国富論』を紹介したことがあります。本書は昨年末から今年年初にかけての雑誌の連載がまとめられたものです。前作はどちらかというとテクニカルな内容でしたが、本書は理念的な部分に重きが置かれた内容です。本書の目次は以下の通りです。
- 金融資本主義の何が間違っていたのか
- 「大減税」で繁栄する日本
- コンピューターはもはや足枷
- 途上国援助の画期的実践
- 公益資本主義の経営へ
著者はベンチャーキャピタリストとしての長年の経験から、今回の金融危機が起こる以前より、金融資本主義や株主資本主義に疑問を感じておられれたようです。
新たに「公益資本主義」を提唱されていますが、その新たな価値観の創造に日本が先導的な役割を果たすことができるということが本書の一番の主張です。
今回の金融危機で、日本は目先の対応に大わらわですが、その中で日本が世界を先導するべきであるという本書における著者の主張を誇大的に感じる方もいるかもしれません。しかしながら、本書を読むと光が見えてくるようにも思います。
著者が書かれている次世代の技術的な部分については、はっきりしないところもありますが、現時点で明瞭にわかるようであれば次世代の基幹産業ではないのかもしれません。
また、途上国援助に対して日本がやりがいを持ちながら果たせる役割などについても本書では比較的詳しく書かれています。
世界的に見て日本は技術的にも思想的にも人的にも高いレベルのものを持っていますが、方向性を指し示して開花させるリーダーや理念が欠けているのが現状です。本書は日本に欠けているものを補う役割があります。
著者は日本の「実業立国」も提唱されています。本書を読んで少し感じたのは、今後の日本において金融をさらに発展させることについてやや過小評価されているのではないかということです。
金融はあくまで実業のサポート役ですが、それは金融のシステムが過不足なく充実してのことです。日本の現状を眺めると、金融については、目利きがあり、高いリスクを取れる、比較的大きな自由度の高いマネーが不足しているように思います。
著者がベンチャーキャピタリストとして活躍されたのはまさにその部分ですが、そこが著者にとって最も身近なところであるだけに、かえって過小評価されているのかもしれません。
目利きがあり、高いリスクを取れる、比較的大きな自由度の高いマネーが存在するためにはどうなればよいかというと、著者のような方が日本の国内から生まれるようになることであると思います。著者もアメリカでのキャリアによって現在のような状態になられています。
日本から著者のような方が次々と出現するようになれば、本書に書かれているようなことは加速するのかもしれません。本書は将来の日本に対する希望を抱かせてくれる本です。


