2009年04月28日
『ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略』
坂口 菊恵著 2009年4月22日発行 1785円(税込)
ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
著者:坂口 菊恵
販売元:東京書籍
発売日:2009-04-17
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五つ星をつけていますが、本書のタイトルからナンパの具体的なノウハウを期待してしまうと、評価は下がると思います。五つ星の評価は、ヒトの性行動の学術的な研究に著者のオリジナルな研究結果を含んだ総説の本としてです。
著者は大学で研究されている方で、本書も学問的な意味で充実している本です。巻末に400を超える引用文献のリストがありますが、ほとんどが英文の論文となっています。本書の目次は以下の通りです。
- 女性にスキがあるの?
- ふたつの性戦略
- ナンパ相手の選び方
- 悪い男がモテるわけ
- 芸能人は離婚が多い?
- 環境に応答するホルモン
本書はヒトの性行動についての研究結果を紹介している本ですが、このような本で面白いのは、直感的に思っていることと研究結果にズレがあるときです。
たとえば、女性のナンパのされやすさと魅力度は関係がなさそうといった結果が照会されています。
本書は女性によって書かれています。学問的な本ということもあると思いますが、全般的に冷静で醒めた筆致です。他にも女性によって書かれた性関係の本を紹介したことがありますが、その際も同様の印象を受けました。
本書では、ナンパと痴漢が類似的な事柄として扱われていますが、両者は女性からすると、最初から男性に性の対象と見なされているという意味においては、近いものなのでしょう。
ここから得られる教訓は、女性にアプローチする際に、相手が自分に対して性的に惹かれていない場合、少なくとも最初ははっきりとした性的な雰囲気を醸し出さない方がよいということです。
基本的に男性は性欲のスイッチが常にオンの状態であり、男性が書いたナンパ本は、男性が本来持っている過剰な性欲によって生じる女性に対する「妄想」とでも言えるようなファンタジーを感じさせるものが多いと思います。
本書に書かれているのは客観的・科学的な「事実」ですが、男性の性行動は「妄想」によって突き動かされている点があります。
その「妄想」の部分はあまりにも強すぎると、女性が「気持ち悪い」と感じやすい部分です。恋愛の初期における男性の課題の一つは、その「妄想」のエネルギーをうまく利用しつつ、あせらず女性の感覚と折り合いをつけることです。
おそらく女性は異性として関心のない男性に対しては、本書にあるような醒めた感覚があるのではないかと思いますが、それはあくまで女性の一側面です。
恋愛における男性の役割は、最初の時点では醒めていることが多い女性を、いかに恋愛状態に変化させるかということです。
本書に紹介されているような研究結果を読むと、男女関係を固定したものと捉えてしまいがちですが、本書の内容を前提として主体的に行動することにより、現実に働きかける余地は十分にあります。
本書に書かれていることは興味深いとは思うのですが、読んで感じたのは、恋愛行動の研究における方法論の難しさです。恋愛は多くの部分が無意識的な過程でなされると思うのですが、研究だと質問紙法などによるものが多く、どうしても意識的な部分に焦点が合ってしまいます。
たとえば、女性に「ナンパされたいか」と尋ねると、ほとんどの女性が否定するでしょう。また、「不倫をしたいか」と尋ねても同様です。
しかしながら、現実にナンパされる女性はいますし、不倫をしている女性もいないわけはありません。女性がいやなのは、ナンパされていると感じながらナンパされることであったり、最初から不倫相手と認識されたりすることです。
気がついたらいい感じの男性に声をかけられて親しくなっていたり、好きになった人がたまたま結婚していたということはよくあることでしょう。
恋愛について研究する場合は、無意識的な部分をいかに研究に取り入れるかが本質的に重要であると思いますが、研究となった時点で意識的になってしまうので、なかなかデザインが難しいかもしれません。
本書はよくまとまっている本ですし、結果も学問的研究としてみると興味深いのですが、実用面での応用を考えると一定の限界があるのは、上記のようなことがあるからであると思います。
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この記事へのコメント
こんにちは。
私はこのジャンルの本はまだ未開拓です。
メジャーブログになるためには登竜門なのでしょうか(笑)。smoothさんも、このジャンルは強いですよね。
この本、私も購入したのですが、冒頭で書かれたように「ナンパの具体的なノウハウを期待」してだったので、ご紹介は見送りました。
帯のフレーズですとか、明らかにそういう層を狙っているようで、出版社の気持ちはわからないでもないですが、著者としても不本意かもしれませんし、そこを期待する読者にもどうなのかな、と。
ただ、橋本大也さんもわざわざ紹介してますし、クオリティ的には高いと思います。単に実用的じゃないだけで(笑)。
>わんわんさん
私の場合、このジャンルは、たまたま反応が良かったので深掘りしているのと、私自身がかつて恋愛系メルマガを出していたので、その延長線上ということがありますが、登竜門じゃないと思いますよ〜(笑)。
ただ、何かしら人と違うジャンルを多めに紹介すると、そのファンが付くことはあると思います。
bestbookさんの場合、本当のメインは投資関係なんですけどね(笑)。
なるほど実用的ではないけれども
まとまった本。何かこう紹介されると
「どうやったら実用的になるかな。」と読みたくなってしまいますね。
クオリティという好奇心で読んでみようと思います!
ここはsmoothさんのところのようにメジャーではないのですが、このジャンルが好きなのは共通しているようです(笑)。
ビジネスや投資の本を紹介して、男女関係の本を紹介しないのは、根っこの部分を無視しているような気がするので、紹介してしまいます。おそらくビジネスや投資に興味がある方は、男女関係にも興味があるはずです。
>smoothさん
実は私も本書は紹介するかどうか迷いました。紹介した目的の一つに、この分野に興味がある多くの人が気になるタイトルの実際の内容を伝えることにも意味があると考え紹介しました。
検索したら紹介されてるのは橋本大也さんだけでしたが、タイトルと内容のギャップから、やはり本書は一般向けには紹介しにくいのかもしれません。非常に力作なのですが。
本当のメインはお書きの通り投資関係なのですが、市場が冷え込んでいることもあり、最近株式投資の本の出版が減っています(涙)。
恋愛も広い意味では投資で、多くの人にとっては株式投資などよりはるかに切実ということもありますが、結局のところは読んでて面白いので紹介しているだけかもしれませんね(笑)。
>hiroさん
本書は必ずしも万人向けの本ではないのですが、読んでいるといろいろと考えが浮かんでくる本です。読み方によっては、実用面でのヒントにもなるかもしれません。
恋愛のポイントが本に書かれていることをそのまま行うのではなく、状況に応じてそこから自分でいかに工夫することにあるかを考えると、そのような能力がある人は本書からもいろいろとヒントが得られると思います。